香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

黒い女2

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「この子には指一本触れるな」

 セラフィンがヴィオは聞いたことがないような低い声で無礼なほど相手を威嚇し唸ったので、ヴィオはなにかただ事でない気配を感じて固唾を飲んで行方を見守る。

 女性相手とはいえ、とっさの時には先生を守らねばと考えると、地面を掴むようにして踏みしめた足に力がみなぎる。
 しかしふとした瞬間、かくんと腰が抜けるような脱力感も感じ、ヴィオは初めて自分の身体がコントロールできない底しれぬ恐怖を感じて、凍りついた。

(抑制剤が切れてきたから? 身体に力が入らない。なんでなの?)
「せんせい」

戸惑うヴィオがそうセラフィンに呼びかけると、いつも通りの穏やかな声で返してくれた。

「ヴィオ。大丈夫だから」

 痛いほどに握り合う互いの手だけがこの状況の中で唯一の真実に感じた。

 背中にヴィオのぬくもりを感じながら、セラフィンが必死にヴィオを庇う様子に女は興味深げな顔をして目を僅かに目を細めてそんな二人を見下ろした。

「昔、貴方がまだその子ぐらい愛らしかった頃に、私にすべてを捧げてくれるって言ってくれたわね。あの約束は忘れたの?」

(私にすべてを、捧げる……)

 その言葉に輪が耳を疑った。それは間違いなく愛の告白だ。このひとは、間違いなく……。

(先生の恋人……?)

 重苦しい沈黙の後、セラフィンは大きく息を吐き、今度はヴィオを抱き寄せて前に立たせ、その背を押すようにアパートメントの中に入っていった。

 セラフィンの後ろから女が付いてくる気配がする。ヴィオはセラフィンの身体に包まれるようにして前を歩いた。鍵を開け、ヴィオを玄関に押し込んだ直後、セラフィンが耳元で低く囁いた。

「ヴィオ、この人と話があるからお前は部屋に入って鍵を閉め、けして出てきてはいけない。いいか、部屋の外で何があってもいいというまで。わかったね?」

 そして背を強めに押される。早くいけという合図なのだろう。ヴィオは鬼気迫るセラフィンの声色に後ろを振り向かずに走りだした。足が多少ふらついたが何とか言われた通りにセラフィンの寝室の奥の部屋に滑り込む。そして扉の内側、ドアノブに掛けておいた鍵を使う。もしも急なヒートに万が一なった場合に使うようにと渡されていた、ヴィオが来てから取り付けられた鍵だったのだ。

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