72 / 222
再会編
黒い女2
しおりを挟む
「この子には指一本触れるな」
セラフィンがヴィオは聞いたことがないような低い声で無礼なほど相手を威嚇し唸ったので、ヴィオはなにかただ事でない気配を感じて固唾を飲んで行方を見守る。
女性相手とはいえ、とっさの時には先生を守らねばと考えると、地面を掴むようにして踏みしめた足に力がみなぎる。
しかしふとした瞬間、かくんと腰が抜けるような脱力感も感じ、ヴィオは初めて自分の身体がコントロールできない底しれぬ恐怖を感じて、凍りついた。
(抑制剤が切れてきたから? 身体に力が入らない。なんでなの?)
「せんせい」
戸惑うヴィオがそうセラフィンに呼びかけると、いつも通りの穏やかな声で返してくれた。
「ヴィオ。大丈夫だから」
痛いほどに握り合う互いの手だけがこの状況の中で唯一の真実に感じた。
背中にヴィオのぬくもりを感じながら、セラフィンが必死にヴィオを庇う様子に女は興味深げな顔をして目を僅かに目を細めてそんな二人を見下ろした。
「昔、貴方がまだその子ぐらい愛らしかった頃に、私にすべてを捧げてくれるって言ってくれたわね。あの約束は忘れたの?」
(私にすべてを、捧げる……)
その言葉に輪が耳を疑った。それは間違いなく愛の告白だ。この女は、間違いなく……。
(先生の恋人……?)
重苦しい沈黙の後、セラフィンは大きく息を吐き、今度はヴィオを抱き寄せて前に立たせ、その背を押すようにアパートメントの中に入っていった。
セラフィンの後ろから女が付いてくる気配がする。ヴィオはセラフィンの身体に包まれるようにして前を歩いた。鍵を開け、ヴィオを玄関に押し込んだ直後、セラフィンが耳元で低く囁いた。
「ヴィオ、この人と話があるからお前は部屋に入って鍵を閉め、けして出てきてはいけない。いいか、部屋の外で何があってもいいというまで。わかったね?」
そして背を強めに押される。早くいけという合図なのだろう。ヴィオは鬼気迫るセラフィンの声色に後ろを振り向かずに走りだした。足が多少ふらついたが何とか言われた通りにセラフィンの寝室の奥の部屋に滑り込む。そして扉の内側、ドアノブに掛けておいた鍵を使う。もしも急なヒートに万が一なった場合に使うようにと渡されていた、ヴィオが来てから取り付けられた鍵だったのだ。
セラフィンがヴィオは聞いたことがないような低い声で無礼なほど相手を威嚇し唸ったので、ヴィオはなにかただ事でない気配を感じて固唾を飲んで行方を見守る。
女性相手とはいえ、とっさの時には先生を守らねばと考えると、地面を掴むようにして踏みしめた足に力がみなぎる。
しかしふとした瞬間、かくんと腰が抜けるような脱力感も感じ、ヴィオは初めて自分の身体がコントロールできない底しれぬ恐怖を感じて、凍りついた。
(抑制剤が切れてきたから? 身体に力が入らない。なんでなの?)
「せんせい」
戸惑うヴィオがそうセラフィンに呼びかけると、いつも通りの穏やかな声で返してくれた。
「ヴィオ。大丈夫だから」
痛いほどに握り合う互いの手だけがこの状況の中で唯一の真実に感じた。
背中にヴィオのぬくもりを感じながら、セラフィンが必死にヴィオを庇う様子に女は興味深げな顔をして目を僅かに目を細めてそんな二人を見下ろした。
「昔、貴方がまだその子ぐらい愛らしかった頃に、私にすべてを捧げてくれるって言ってくれたわね。あの約束は忘れたの?」
(私にすべてを、捧げる……)
その言葉に輪が耳を疑った。それは間違いなく愛の告白だ。この女は、間違いなく……。
(先生の恋人……?)
重苦しい沈黙の後、セラフィンは大きく息を吐き、今度はヴィオを抱き寄せて前に立たせ、その背を押すようにアパートメントの中に入っていった。
セラフィンの後ろから女が付いてくる気配がする。ヴィオはセラフィンの身体に包まれるようにして前を歩いた。鍵を開け、ヴィオを玄関に押し込んだ直後、セラフィンが耳元で低く囁いた。
「ヴィオ、この人と話があるからお前は部屋に入って鍵を閉め、けして出てきてはいけない。いいか、部屋の外で何があってもいいというまで。わかったね?」
そして背を強めに押される。早くいけという合図なのだろう。ヴィオは鬼気迫るセラフィンの声色に後ろを振り向かずに走りだした。足が多少ふらついたが何とか言われた通りにセラフィンの寝室の奥の部屋に滑り込む。そして扉の内側、ドアノブに掛けておいた鍵を使う。もしも急なヒートに万が一なった場合に使うようにと渡されていた、ヴィオが来てから取り付けられた鍵だったのだ。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる