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再会編
ラズラエル百貨店2
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「ヴィオ? 食べないのか?」
「香ばしい、いい匂い。温かい」
「出来立てを頼んだから」
ヴィオが小さなナプキンにくるまれたそれに口をつけるの見届けてから、セラフィンも口にしてみる。
「甘い~ 美味しい。イチゴの味がするよ。周りに固まった砂糖の玉が入ってる! カリカリする。美味しい」
撫ぜると目を細めた猫のように、大きな目を細めて目じりを下げながらヴィオはぱくぱくと続けて食べた。
しかし途中それこそ驚いた子猫がしっぽを立ててぴくんっとするように動きを止めた。
「どうしたんだ?」
自分でもひどく甘く穏やかな声を出しているとセラフィンは思いつつ、片手をあげて砂糖がタップリついたヴィオの口元を指先で拭い、無意識にそれを舐めとる。
するとヴィオは真っ赤な顔になって菓子を取り落しそうになった。
実際ヴィオは自分を甘やかすセラフィンの仕草の一つ一つにドキドキしてしまって穏やかでいられないのだ。
「せ、先生と半分こして食べようとしたのに僕、もう半分以上食べちゃったから。里ではね、いつも姉さんがちょっと多めに半分こしていったんだけど、先生に大きい方食べて欲しかったのに、美味しくてここまで食べちゃった」
「すまない。気が付かなかった」
いいしなセラフィンは自分の方の菓子を半分に割る。チョコレートの香りが漂う菓子を笑顔で口元に差し出された。目の端に行き交う人々がこちらを興味深げに見てくるから、ヴィオはますます顔を赤らめながらそれをあむっと口に含んだ。香り高く少しほろ苦い味が大人っぽくて、ヴィオが少し複雑な顔をしてしまった。
「ヴィオには少し苦く感じたかな?」
セラフィンはヴィオが口をつけたところを上からまた自然な流れでぱくっと食べた。またそれにも胸がとくんとなる。
(なんだか僕ら、恋人同士みたい)
そう考えてヴィオはまた勝手に照れて、それがまた恥ずかしくて。そこからはあっという間にピンクの方の菓子を食べきって、これまた甘いりんごのジュースを一気に飲み干した。
「ヴィオ、腹が減ってたんだな。買い物をしたらすぐ夕食にしよう」
そんな風にセラフィンは思ったようで、自分も菓子を食べ終わると立ち上がり、再びヴィオに手を差し伸べる。ヴィオがその手を取るのは当たり前とばかりに麗しい顔で見下ろしてくるから、ヴィオはおずおずと手を差し出すとくいっと引っ張られた。立ち上がる時に勢い余ってその腕に飛び込むと、セラフィンは抱き留めながらおかし気に笑う。
「元気がいいな、ヴィオ。さあいこう」
煌く明かりにお洒落で洗練された商品が所狭しと並ぶ、ラズラエル百貨店。生まれて初めてエレベーターに乗りこんだヴィオは、緊張の面持ちでこちこちに固まっている。そんな様子も可愛くてたまらず、セラフィンはヴィオに初めての経験を沢山させてやりたいと思った。それが自分自身も楽しみの一つになりそうだからだ。
セラフィンの行きつけの店は上等な既成の服を売っている店を併設した、ラズラエル百貨店内にあるサロンだった。
「わざわざおいでいただかなくても、お招きいただければご自宅に伺いましたのにって、あら、これはお急ぎね」
サロンのオーナーはの女性はヴィオの姿を上から下まで検分するようにして見渡すと、さっそくヴィオだけ別室に連れ去っていった。
不安げに何度もセラフィンを振り返るヴィオの様子が連れていかれる牛のように哀れで、でも愛らしくてセラフィンは気が付くとまた自分が微笑んでいると知った。
ヴィオと一緒にいる時、セラフィンはいつでもこんな調子だ。ということはヴィオと共に暮らしていけば自分はいつでも笑顔でいられるのではないか。そんな考えに至ってそれを否定する。
(いつまでも続くわけではない。ひと時、天から君を預けてもらっているだけだ。こんな穏やかな幸せ、俺が得ていいものではない)
ヴィオを隠して大きく揺れた天鵞絨の幕の向こうをセラフィンは寂し気な眼差しで見送っていた。
「香ばしい、いい匂い。温かい」
「出来立てを頼んだから」
ヴィオが小さなナプキンにくるまれたそれに口をつけるの見届けてから、セラフィンも口にしてみる。
「甘い~ 美味しい。イチゴの味がするよ。周りに固まった砂糖の玉が入ってる! カリカリする。美味しい」
撫ぜると目を細めた猫のように、大きな目を細めて目じりを下げながらヴィオはぱくぱくと続けて食べた。
しかし途中それこそ驚いた子猫がしっぽを立ててぴくんっとするように動きを止めた。
「どうしたんだ?」
自分でもひどく甘く穏やかな声を出しているとセラフィンは思いつつ、片手をあげて砂糖がタップリついたヴィオの口元を指先で拭い、無意識にそれを舐めとる。
するとヴィオは真っ赤な顔になって菓子を取り落しそうになった。
実際ヴィオは自分を甘やかすセラフィンの仕草の一つ一つにドキドキしてしまって穏やかでいられないのだ。
「せ、先生と半分こして食べようとしたのに僕、もう半分以上食べちゃったから。里ではね、いつも姉さんがちょっと多めに半分こしていったんだけど、先生に大きい方食べて欲しかったのに、美味しくてここまで食べちゃった」
「すまない。気が付かなかった」
いいしなセラフィンは自分の方の菓子を半分に割る。チョコレートの香りが漂う菓子を笑顔で口元に差し出された。目の端に行き交う人々がこちらを興味深げに見てくるから、ヴィオはますます顔を赤らめながらそれをあむっと口に含んだ。香り高く少しほろ苦い味が大人っぽくて、ヴィオが少し複雑な顔をしてしまった。
「ヴィオには少し苦く感じたかな?」
セラフィンはヴィオが口をつけたところを上からまた自然な流れでぱくっと食べた。またそれにも胸がとくんとなる。
(なんだか僕ら、恋人同士みたい)
そう考えてヴィオはまた勝手に照れて、それがまた恥ずかしくて。そこからはあっという間にピンクの方の菓子を食べきって、これまた甘いりんごのジュースを一気に飲み干した。
「ヴィオ、腹が減ってたんだな。買い物をしたらすぐ夕食にしよう」
そんな風にセラフィンは思ったようで、自分も菓子を食べ終わると立ち上がり、再びヴィオに手を差し伸べる。ヴィオがその手を取るのは当たり前とばかりに麗しい顔で見下ろしてくるから、ヴィオはおずおずと手を差し出すとくいっと引っ張られた。立ち上がる時に勢い余ってその腕に飛び込むと、セラフィンは抱き留めながらおかし気に笑う。
「元気がいいな、ヴィオ。さあいこう」
煌く明かりにお洒落で洗練された商品が所狭しと並ぶ、ラズラエル百貨店。生まれて初めてエレベーターに乗りこんだヴィオは、緊張の面持ちでこちこちに固まっている。そんな様子も可愛くてたまらず、セラフィンはヴィオに初めての経験を沢山させてやりたいと思った。それが自分自身も楽しみの一つになりそうだからだ。
セラフィンの行きつけの店は上等な既成の服を売っている店を併設した、ラズラエル百貨店内にあるサロンだった。
「わざわざおいでいただかなくても、お招きいただければご自宅に伺いましたのにって、あら、これはお急ぎね」
サロンのオーナーはの女性はヴィオの姿を上から下まで検分するようにして見渡すと、さっそくヴィオだけ別室に連れ去っていった。
不安げに何度もセラフィンを振り返るヴィオの様子が連れていかれる牛のように哀れで、でも愛らしくてセラフィンは気が付くとまた自分が微笑んでいると知った。
ヴィオと一緒にいる時、セラフィンはいつでもこんな調子だ。ということはヴィオと共に暮らしていけば自分はいつでも笑顔でいられるのではないか。そんな考えに至ってそれを否定する。
(いつまでも続くわけではない。ひと時、天から君を預けてもらっているだけだ。こんな穏やかな幸せ、俺が得ていいものではない)
ヴィオを隠して大きく揺れた天鵞絨の幕の向こうをセラフィンは寂し気な眼差しで見送っていた。
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