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再会編
尊い君2
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「……わかった。ヴィオの好きにしてみるといい。まずは一度必ず私と一緒に昨日の病院にかかるんだ。その時バース性の専門医と私とで抑制剤の処方を相談をしてみるから、それまでは絶対に一人で街をふらつかない様に」
取り合えず世間の厳しさを自分が見守りながら経験させて様子をみようと、過保護なのだか厳しいのかわからないような理屈をつけてセラフィンは自分で自分を誤魔化すように納得させた。中央で暮らすことの金銭的な相場の負担、仕事をしながら働くことの大変さ、オメガとして周囲からどう扱われるのか。そんなものを学ばせ里に帰るか中央に残るか本人に決めさせようと、セラフィンは狡くもその場での決断を避ける形になった。
『好きにしてみるといい』という部分を良い方に受け取ったヴィオは、途端に笑顔になってオレンジジュースをこくんと飲んでセラフィンに向かい本当にうれしそうに笑いかけてきた。
「ああ! 病院で思い出しました! 先生それは今日では駄目ですか?!」
急に生来持ちあわせた明るく元気な声を出したヴィオに、日頃静かな環境に暮らしているセラフィンは度肝を抜かれて手にしたカップを取り落しかけた。
「僕、今日、お仕事の面接にいかないといけないんです! 先生の病院のカフェなんですよ! そこがもし駄目でも……。ちゃんと仕事を見つけます。それで先生と一緒に病院にかかって、お薬貰ってきちんと働く姿をお見せしたら先生だって納得してくださると思います! それで……。ちゃんとお金を貯めて一人暮らしをするので……。それまででいいので、どうかここにおいてください。僕どこでも寝られます。家事もできます、出来ることは何でも沢山お手伝いします。だからどこかこの家の端っこに置いてください! お願いします!」
セラフィンの自宅のある駅は昨日ヴィオがカイたちと降り立った中央駅を挟んで南側にあり、中央駅を通り抜けて北側にある病院までは昨日と同じ電車に乗った。後ろめたさからどこかで姉たちとすれ違わないかと内心は気が気でなかったヴィオだが、祭りですら見たことのないような人出の中央駅はわざわざ待ち合わせても出会えるのか難しいのではとないか思った。
病院につくと先生と共に職員用の通用口を通してもらい、先生が白衣に袖を通すのを待って一緒に昨日仕事を紹介してくれると言っていた紹介窓口の女性のところに挨拶に来た。
「あら、昨日のヴィオくんね。本当にモルス先生とお知り合いだったのね。あえて良かったね」
親切な受付係の女性はそう言って二人を見上げてにこにこしている。
するとヴィオの背後にぴったりと見守るように立っていたセラフィンが、保護者のように軽く会釈をしてくれてヴィオはちょっぴり恥ずかしくなってしまった。
そのまま面接先のティーサロンまでついてこようとしたから、流石に固辞する。
「いいか、面接の後は午後の診療まではロビーで時間をつぶして私が来るのをまっているんだぞ。一人で出かけてはだめだ」
「えー。隣りの公園ぐらいだめですか? あと、下の噴水! 昨日じっくり見られなかったから」
「診察が済んで薬を飲むまでは駄目だ。今度私の出勤前に、散策すればよいだろう?」
(先生過保護すぎるよ。カイ兄さんよりすごいかも)
やはり昨日の今日でオメガの自覚を持てと言われても実感がわかず、まるで呑気なヴィオだ。その後店長が即決してあっさり決まったカフェの仕事を初日から手伝うことになり、午後の診療ぎりぎりまで仕事を教わりうろつくどころではなくなってしまったのだが。
ロビーにいないヴィオをセラフィンが血相を変えて探しに来たが、借りたひらひらのエプロンだけを私服の上に身に着けた姿で明るい笑顔を浮かべながら嬉しそうにぶんぶん手を振るヴィオを見て、心の底から安堵する。日頃かかない汗をいろんなところにかきセラフィンはどっと疲れてしまった。
午後になってかかったバース性の専門医は昨日の医師とはまた違う人で、その人にオメガとしての生活の心得をヴィオはみっちり確認された。多分姉のリアが持ち去った方の紙には書かれていたであろう内容だ。
中央でオメガが受けるかもしれない理不尽な仕打ちはセラフィンに代わって医師が説明してくれることになって、ある意味セラフィンの狙い通りではあった。説明の間ヴィオは赤くなったり青くなったりと百面相を繰り広げていた。
急に心細さが増してきたのか、ぎゅうぎゅうと小さなころのようにセラフィンの袖口を握りしめてきたので指先で手を探り、セラフィンは優しく握り返してやる。診療後ヴィオは無口になると、帰り道では片時もセラフィンの傍を離れずにいた。
家に帰ったらすぐに抑制剤を飲んでまたセラフィンの傍にすりよる。子どもの頃の彼に戻ったような仕草に、セラフィンは甘やかしたい気持ちが限りなく溢れて思わずヴィオを抱きしめかけた。しかしヴィオを里に返すためには中央での生活のリスクを本人なりに感じ取ってくれなければならないと、必要以上にケアをしないように努めたのだ。
取り合えず世間の厳しさを自分が見守りながら経験させて様子をみようと、過保護なのだか厳しいのかわからないような理屈をつけてセラフィンは自分で自分を誤魔化すように納得させた。中央で暮らすことの金銭的な相場の負担、仕事をしながら働くことの大変さ、オメガとして周囲からどう扱われるのか。そんなものを学ばせ里に帰るか中央に残るか本人に決めさせようと、セラフィンは狡くもその場での決断を避ける形になった。
『好きにしてみるといい』という部分を良い方に受け取ったヴィオは、途端に笑顔になってオレンジジュースをこくんと飲んでセラフィンに向かい本当にうれしそうに笑いかけてきた。
「ああ! 病院で思い出しました! 先生それは今日では駄目ですか?!」
急に生来持ちあわせた明るく元気な声を出したヴィオに、日頃静かな環境に暮らしているセラフィンは度肝を抜かれて手にしたカップを取り落しかけた。
「僕、今日、お仕事の面接にいかないといけないんです! 先生の病院のカフェなんですよ! そこがもし駄目でも……。ちゃんと仕事を見つけます。それで先生と一緒に病院にかかって、お薬貰ってきちんと働く姿をお見せしたら先生だって納得してくださると思います! それで……。ちゃんとお金を貯めて一人暮らしをするので……。それまででいいので、どうかここにおいてください。僕どこでも寝られます。家事もできます、出来ることは何でも沢山お手伝いします。だからどこかこの家の端っこに置いてください! お願いします!」
セラフィンの自宅のある駅は昨日ヴィオがカイたちと降り立った中央駅を挟んで南側にあり、中央駅を通り抜けて北側にある病院までは昨日と同じ電車に乗った。後ろめたさからどこかで姉たちとすれ違わないかと内心は気が気でなかったヴィオだが、祭りですら見たことのないような人出の中央駅はわざわざ待ち合わせても出会えるのか難しいのではとないか思った。
病院につくと先生と共に職員用の通用口を通してもらい、先生が白衣に袖を通すのを待って一緒に昨日仕事を紹介してくれると言っていた紹介窓口の女性のところに挨拶に来た。
「あら、昨日のヴィオくんね。本当にモルス先生とお知り合いだったのね。あえて良かったね」
親切な受付係の女性はそう言って二人を見上げてにこにこしている。
するとヴィオの背後にぴったりと見守るように立っていたセラフィンが、保護者のように軽く会釈をしてくれてヴィオはちょっぴり恥ずかしくなってしまった。
そのまま面接先のティーサロンまでついてこようとしたから、流石に固辞する。
「いいか、面接の後は午後の診療まではロビーで時間をつぶして私が来るのをまっているんだぞ。一人で出かけてはだめだ」
「えー。隣りの公園ぐらいだめですか? あと、下の噴水! 昨日じっくり見られなかったから」
「診察が済んで薬を飲むまでは駄目だ。今度私の出勤前に、散策すればよいだろう?」
(先生過保護すぎるよ。カイ兄さんよりすごいかも)
やはり昨日の今日でオメガの自覚を持てと言われても実感がわかず、まるで呑気なヴィオだ。その後店長が即決してあっさり決まったカフェの仕事を初日から手伝うことになり、午後の診療ぎりぎりまで仕事を教わりうろつくどころではなくなってしまったのだが。
ロビーにいないヴィオをセラフィンが血相を変えて探しに来たが、借りたひらひらのエプロンだけを私服の上に身に着けた姿で明るい笑顔を浮かべながら嬉しそうにぶんぶん手を振るヴィオを見て、心の底から安堵する。日頃かかない汗をいろんなところにかきセラフィンはどっと疲れてしまった。
午後になってかかったバース性の専門医は昨日の医師とはまた違う人で、その人にオメガとしての生活の心得をヴィオはみっちり確認された。多分姉のリアが持ち去った方の紙には書かれていたであろう内容だ。
中央でオメガが受けるかもしれない理不尽な仕打ちはセラフィンに代わって医師が説明してくれることになって、ある意味セラフィンの狙い通りではあった。説明の間ヴィオは赤くなったり青くなったりと百面相を繰り広げていた。
急に心細さが増してきたのか、ぎゅうぎゅうと小さなころのようにセラフィンの袖口を握りしめてきたので指先で手を探り、セラフィンは優しく握り返してやる。診療後ヴィオは無口になると、帰り道では片時もセラフィンの傍を離れずにいた。
家に帰ったらすぐに抑制剤を飲んでまたセラフィンの傍にすりよる。子どもの頃の彼に戻ったような仕草に、セラフィンは甘やかしたい気持ちが限りなく溢れて思わずヴィオを抱きしめかけた。しかしヴィオを里に返すためには中央での生活のリスクを本人なりに感じ取ってくれなければならないと、必要以上にケアをしないように努めたのだ。
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