香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

貴方の元へ2

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「お会いしたいんですけど」
「かかりたいってこと? 外来はまた朝8時から並んで頂戴ね」
「違うんです。あの、先生は恩人で。近くに来たのでご挨拶したくて。ここで先生がお仕事を終えて帰られるの待たせていただくことはできないですか?」

 見るからに純朴そうな少年に受付の女性はほだされたようだが、困った顔をして自分の後ろにある連絡用の案内板を指さした。そこには診療時間の他に病院内の色々な案内の紙が貼りつけられていた。

「ほら、もうあと少しでここ閉まるのよ。そうしたらそこのロビーでは待てなくなるし、それに関係者の出入り口はこっちじゃなくて公園口の方だからここで待っていても会えないわよ。先生たちは帰るのも遅いし……」
「あ、それならその出入口で待たせてください。待てます、僕」

 案内板を見ると確かに時刻はもう外来は完全に締まる時間にあと少しだった。しかしその隣にあったいろいろな紙が貼られている掲示板にヴィオは目を止めた。

「その掲示物、この病院内で仕事の募集があるんですか?」
「ああ、これね。院内にあるカフェの給仕さんの募集が出てるのよ。なんだ。先生にお仕事紹介してほしかったの?」

 再び曖昧に微笑んだら、親切にもその女性は募集の紙を外してヴィオに手渡してくれた。

「カフェの担当者、私の友達だから私から話しておくわ。ちょうど結婚して一人仕事を辞めちゃったんだって困ってたから。明日にでも面接に来てみるといいわよ。私が話をしておくから。あなた元気で可愛いし、喜ばれそうだわね。この紙に名前と連絡先書いておいて」

(仕事が見つかるかもしれない! さっきいった綺麗なカフェだ!)

 思いがけない申し出にヴィオはびっくりして何度も女性に頭を下げた。

「あ、ありがとうございます。でも連絡先はまだ決まってなくて。でも明日必ず朝ここに来ます」

 言いながらペンを借りて名前を書き記した。明日の再訪を約束して、そのまま女性に職員用の通用口を教えてもらうと、ヴィオは先生が仕事を終えて帰宅する時を、今か今かと待つことにしたのだ。


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