48 / 222
再会編
判定2
しおりを挟む
「僕にはやりたいことがあるから」
「そんなことだろうと思ったわ。中央で勉強するんでしょ? 看護師の。それで大好きなセラフィン先生の傍にいって手助けがしたいんでしょ?」
「姉さん知ってたんだ」
少しだけ姉の方に近づいて座りなおす弟に、リアは苦笑した。
「当たり前でしょ。先生たちから聞いてたわよ。私だって学校にたまにいってるんだから」
リアも料理上手な腕を買われて月に何度かある学校での昼食会の食事の準備でカレブを手伝っていた。
「姉さん、僕のことに興味がないと思ってた」
「弟のことが興味がないわけないでしょ。昔は暇さえあれば私にまとわりついてきたのに。でも最近のあんたはすっかり大人びちゃって、沢山勉強して、私のことなんてどうせ学もないやつって小ばかにしているから話もしてくれないんだと思ってた」
そういって笑った顔は少し歪んだ哀し気な顔で、いつも明るく自信満々な姉がそんな風に感じていた姉の気持ちを知ってヴィオは驚いてしまった。
「そんなわけないでしょ。僕たち里の中ではもうたった二人の姉弟なんだよ……。姉さんのことそんな風に思うはずないよ。ただ僕は、学校に行ってやりたいこととか考えたいこととか沢山沢山できて……」
「わかってるわよ。あんたの世界が広がったから、あんたの中の私はそれだけ小さくなったってことだわ」
本当にそうなんだろうか。
世界が広がると大切な人が小さくなるなんてことあるのだろうか。頭の中で占めている時間は減っても、大切な人は大切な人のままだ。だけどその時ヴィオは上手い言葉が思いつかなくて言えなかった。
いつもそう。肝心な時は言葉が詰まって、ちっぽけで泣き虫のヴィオに戻ってしまうのだ。それが歯がゆくて、久しぶりに瞼が目がしらが熱くなってしまった。
「姉さん、馬鹿にしないで聞いてくれる? できれば反対もしないで聞いて欲しいんだ」
姉は頷きもせずただじっと弟の瞳を見つめ返してきた。面差しはよく似た姉弟と言われてきたが、やっぱりリアの方が逞しくて強いとヴィオは感じる。
「僕は、このまま、この街に残るよ。それでまず仕事を探して働きながら学校にいってみる。ずっと僕らの学校を支援してくれていた、全国社会的少数者支援教師協会にいって、ジブリール様と連絡を取らせてもらってくる。僕、中央の看護学校に入りたくて、その推薦書を先生がジブリール様にお願いしていて、その合否がそろそろ家に届くと思うんだ。もしくは学校に……。でも先にこっちに来ちゃったから直接聞きに行くつもりなんだ」
「そっか……、やっぱりヴィオは里をでていくつもりなんだ。カイ兄さんのことはどうするの?」
ヴィオはぎゅっと握っていた封筒に目をやった。そしてその中身を取り出す。それぞれのバース性がかかれているということをぬいたら、ただの紙切れ。しかしその価値は重たい。一枚にはベータであると書かれ今まで通りの生活スタイルを続けてよいとの記載が、もう一枚にはオメガであること書かれていて日常生活の注意事項などが細かく記載されていた。
リアと二人でまた無言になってそれを覗き込んでいると、不意にリアの瞳が急にいつものように力強い煌きを増し、何かを見つけたようにつぶやいた。
「……ヴィオみて。この紙。名前の記載がないわ」
「それがどうしたの?」
多分誰にでも配れるように大量に摺られたそれには、名前の記載がないのだ。
封筒の方にだけ二人の名前が書いてある。
リアは無言でベータの方の紙を抜き取り、手早く畳んでヴィオの手の中に押し込んできた。
「ヴィオ、あんたこっちをもっていって。私はこっちを持っていくから」
「姉さん?」
「ただの時間稼ぎにしかならないかもしれないけど。私がオメガだったってことにして、カイ兄さんと里に帰るから。先生の話じゃ、どうせすぐに発情期がくるわけじゃないんでしょ? ……あんたはこっちで仕事を見つけて学校に通って。それでセラフィン先生にあったら……。項噛んでもらいなさい」
「ええ!? 何言ってるの? 姉さん」
姉のリアの思いがけない提案にヴィオは動悸が止まらず、手の中の紙切れを再び握りしめてしまったのだ。
「私の目が誤魔化せると思ってるの? あんたのあの先生への執着、会った瞬間から好き好きってあんなに普通傾倒する? あんたやっぱりオメガで、あの先生はきっと絶対アルファでしょ」
「違う、僕は先生が僕を助けてくれて、勉強することの楽しさを教えてくれて、恩人だから……」
「そうかしら。ただそれだけなはずないわ。先生の話をする時のあんた。幼くっても、いつも色っぽい顔してた。まるで雌って感じのね」
「そんなことだろうと思ったわ。中央で勉強するんでしょ? 看護師の。それで大好きなセラフィン先生の傍にいって手助けがしたいんでしょ?」
「姉さん知ってたんだ」
少しだけ姉の方に近づいて座りなおす弟に、リアは苦笑した。
「当たり前でしょ。先生たちから聞いてたわよ。私だって学校にたまにいってるんだから」
リアも料理上手な腕を買われて月に何度かある学校での昼食会の食事の準備でカレブを手伝っていた。
「姉さん、僕のことに興味がないと思ってた」
「弟のことが興味がないわけないでしょ。昔は暇さえあれば私にまとわりついてきたのに。でも最近のあんたはすっかり大人びちゃって、沢山勉強して、私のことなんてどうせ学もないやつって小ばかにしているから話もしてくれないんだと思ってた」
そういって笑った顔は少し歪んだ哀し気な顔で、いつも明るく自信満々な姉がそんな風に感じていた姉の気持ちを知ってヴィオは驚いてしまった。
「そんなわけないでしょ。僕たち里の中ではもうたった二人の姉弟なんだよ……。姉さんのことそんな風に思うはずないよ。ただ僕は、学校に行ってやりたいこととか考えたいこととか沢山沢山できて……」
「わかってるわよ。あんたの世界が広がったから、あんたの中の私はそれだけ小さくなったってことだわ」
本当にそうなんだろうか。
世界が広がると大切な人が小さくなるなんてことあるのだろうか。頭の中で占めている時間は減っても、大切な人は大切な人のままだ。だけどその時ヴィオは上手い言葉が思いつかなくて言えなかった。
いつもそう。肝心な時は言葉が詰まって、ちっぽけで泣き虫のヴィオに戻ってしまうのだ。それが歯がゆくて、久しぶりに瞼が目がしらが熱くなってしまった。
「姉さん、馬鹿にしないで聞いてくれる? できれば反対もしないで聞いて欲しいんだ」
姉は頷きもせずただじっと弟の瞳を見つめ返してきた。面差しはよく似た姉弟と言われてきたが、やっぱりリアの方が逞しくて強いとヴィオは感じる。
「僕は、このまま、この街に残るよ。それでまず仕事を探して働きながら学校にいってみる。ずっと僕らの学校を支援してくれていた、全国社会的少数者支援教師協会にいって、ジブリール様と連絡を取らせてもらってくる。僕、中央の看護学校に入りたくて、その推薦書を先生がジブリール様にお願いしていて、その合否がそろそろ家に届くと思うんだ。もしくは学校に……。でも先にこっちに来ちゃったから直接聞きに行くつもりなんだ」
「そっか……、やっぱりヴィオは里をでていくつもりなんだ。カイ兄さんのことはどうするの?」
ヴィオはぎゅっと握っていた封筒に目をやった。そしてその中身を取り出す。それぞれのバース性がかかれているということをぬいたら、ただの紙切れ。しかしその価値は重たい。一枚にはベータであると書かれ今まで通りの生活スタイルを続けてよいとの記載が、もう一枚にはオメガであること書かれていて日常生活の注意事項などが細かく記載されていた。
リアと二人でまた無言になってそれを覗き込んでいると、不意にリアの瞳が急にいつものように力強い煌きを増し、何かを見つけたようにつぶやいた。
「……ヴィオみて。この紙。名前の記載がないわ」
「それがどうしたの?」
多分誰にでも配れるように大量に摺られたそれには、名前の記載がないのだ。
封筒の方にだけ二人の名前が書いてある。
リアは無言でベータの方の紙を抜き取り、手早く畳んでヴィオの手の中に押し込んできた。
「ヴィオ、あんたこっちをもっていって。私はこっちを持っていくから」
「姉さん?」
「ただの時間稼ぎにしかならないかもしれないけど。私がオメガだったってことにして、カイ兄さんと里に帰るから。先生の話じゃ、どうせすぐに発情期がくるわけじゃないんでしょ? ……あんたはこっちで仕事を見つけて学校に通って。それでセラフィン先生にあったら……。項噛んでもらいなさい」
「ええ!? 何言ってるの? 姉さん」
姉のリアの思いがけない提案にヴィオは動悸が止まらず、手の中の紙切れを再び握りしめてしまったのだ。
「私の目が誤魔化せると思ってるの? あんたのあの先生への執着、会った瞬間から好き好きってあんなに普通傾倒する? あんたやっぱりオメガで、あの先生はきっと絶対アルファでしょ」
「違う、僕は先生が僕を助けてくれて、勉強することの楽しさを教えてくれて、恩人だから……」
「そうかしら。ただそれだけなはずないわ。先生の話をする時のあんた。幼くっても、いつも色っぽい顔してた。まるで雌って感じのね」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる