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再会編
フェロモン2
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「寂しいにきまってるじゃない! ずーっとこの学校にいてね。いてくれるよね?」
「そう……、そうだよ。ここにいる」
嘘のつけない性格が仇となり、たどたどしい返事をしてしまい、それをまたカイになにか勘繰られるのではと青くなる。
「実は俺がカイ兄ちゃんを攫いに来たって言ったらどうする?」
「そんなの困る~」
「かっこいいから、王子様みたい~」
女の子たちがきゃあきゃあと騒ぎだしたが、ヴィオはその騒ぎを宥めることも笑い飛ばすこともできずにただおろおろと翻弄されてしまった。
「ねえ、さっきからなんなの!? カイ兄さん、なんか変だよ」
謎かけに耐えかねたヴィオが苛立ちを抑えきれずにいると、ちょうど用務さんがリンゴンと大きくベルを鳴らした。子どもたちはみな我先にと、今度は人気のボール遊びをするために、小さな中庭の向こうにある運動場の方へ飛び出していった。
小さな教室にはヴィオと向かい合うカイが残される。明るいクリーム色で塗られた教室の中、子どもたちが走り去る窓の外に目を向けた端正な横顔のカイは、中央風の若者のようにジャケットを着ていてどこか見知らぬ男性のようだ。
いつも通り、ラフな生成りのシャツに青い踝が見えるズボン姿のヴィオとは住む世界すら違う人のように見える。
不意にまた、視線を合わせられる。
囚われる、と無意識にそんな単語が頭をよぎった。
カイが一歩ヴィオの傍によれば、ヴィオは一歩身を引く。
「どうした? 俺が恐ろしいのか?」
男らしい朗々とした、低音の声がヴィオを揶揄う。
怖い。確かに怖い。何かわからぬ畏怖が伝わる。
怯えを見透かされて、日を浴びて鮮やかに輝くエメラルドグリーンの瞳をヴィオは潤んだ大きな瞳で見据えた。
「別に……。そんなわけないよ。子どもの頃から知ってる、カイ兄さんでしょ?」
「そうだな。子どもの頃から一緒だった。ずっと傍についていてやりたかったができなかった。でもこれからは……」
また一歩、間を詰められた。今度は避けずに留まる。カイのことを何とも思っていないとアピールしたいが、カイから迸る甘く重厚で、セクシーな香りに思わず瞼がとろんと落ちかける。
カイは余裕ありげに微笑んで、そんなヴィオのほっそりした身体を逞しく厚い胸の中に包み込むように抱き込んだ。そしてヴィオの張りのある首筋に鼻先を近づけ、スンっと吸い込む。熱い吐息が首筋に降りかかり、甘美な疼きが腹の辺りに渦巻く。初めての感覚に戸惑いながら、ヴィオが恐れからぎゅっとカイに縋り付くと、カイは愛し気にヴィオの柔らかく滑らかな首筋に口づけてきた。その唇の思いがけぬ柔らかさに、腰が砕けそうになる。
身体を離したいのに、力が入らなくて、逞しいカイの身体に逆に縋ってしまう。カイは嬉し気に吐息で笑い、さらに強くヴィオを抱きしめた。
香りの渦に巻き込まれるようで、ヴィオは眩暈がした。
「ヴィオ、お前は感じない?」
「……なにを?」
「俺の、香り」
「そう……、そうだよ。ここにいる」
嘘のつけない性格が仇となり、たどたどしい返事をしてしまい、それをまたカイになにか勘繰られるのではと青くなる。
「実は俺がカイ兄ちゃんを攫いに来たって言ったらどうする?」
「そんなの困る~」
「かっこいいから、王子様みたい~」
女の子たちがきゃあきゃあと騒ぎだしたが、ヴィオはその騒ぎを宥めることも笑い飛ばすこともできずにただおろおろと翻弄されてしまった。
「ねえ、さっきからなんなの!? カイ兄さん、なんか変だよ」
謎かけに耐えかねたヴィオが苛立ちを抑えきれずにいると、ちょうど用務さんがリンゴンと大きくベルを鳴らした。子どもたちはみな我先にと、今度は人気のボール遊びをするために、小さな中庭の向こうにある運動場の方へ飛び出していった。
小さな教室にはヴィオと向かい合うカイが残される。明るいクリーム色で塗られた教室の中、子どもたちが走り去る窓の外に目を向けた端正な横顔のカイは、中央風の若者のようにジャケットを着ていてどこか見知らぬ男性のようだ。
いつも通り、ラフな生成りのシャツに青い踝が見えるズボン姿のヴィオとは住む世界すら違う人のように見える。
不意にまた、視線を合わせられる。
囚われる、と無意識にそんな単語が頭をよぎった。
カイが一歩ヴィオの傍によれば、ヴィオは一歩身を引く。
「どうした? 俺が恐ろしいのか?」
男らしい朗々とした、低音の声がヴィオを揶揄う。
怖い。確かに怖い。何かわからぬ畏怖が伝わる。
怯えを見透かされて、日を浴びて鮮やかに輝くエメラルドグリーンの瞳をヴィオは潤んだ大きな瞳で見据えた。
「別に……。そんなわけないよ。子どもの頃から知ってる、カイ兄さんでしょ?」
「そうだな。子どもの頃から一緒だった。ずっと傍についていてやりたかったができなかった。でもこれからは……」
また一歩、間を詰められた。今度は避けずに留まる。カイのことを何とも思っていないとアピールしたいが、カイから迸る甘く重厚で、セクシーな香りに思わず瞼がとろんと落ちかける。
カイは余裕ありげに微笑んで、そんなヴィオのほっそりした身体を逞しく厚い胸の中に包み込むように抱き込んだ。そしてヴィオの張りのある首筋に鼻先を近づけ、スンっと吸い込む。熱い吐息が首筋に降りかかり、甘美な疼きが腹の辺りに渦巻く。初めての感覚に戸惑いながら、ヴィオが恐れからぎゅっとカイに縋り付くと、カイは愛し気にヴィオの柔らかく滑らかな首筋に口づけてきた。その唇の思いがけぬ柔らかさに、腰が砕けそうになる。
身体を離したいのに、力が入らなくて、逞しいカイの身体に逆に縋ってしまう。カイは嬉し気に吐息で笑い、さらに強くヴィオを抱きしめた。
香りの渦に巻き込まれるようで、ヴィオは眩暈がした。
「ヴィオ、お前は感じない?」
「……なにを?」
「俺の、香り」
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