香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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再会編

従兄弟の帰郷6

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二人揃って勝手に食事の席を抜け出したことをリアにこっぴどく叱られて、カイ兄さんが勝手についてきたせいだと恨めしく思ったヴィオだ。

 席に戻ると育ち盛りのヴィオは変に気を使ったせいかお腹が空いてしまい、食事をせっせととっているうちにすぐにお開きになった。
 その場では明後日カイが中央に二人を伴って向かう話も、バース検査の話もでなかったことに、ヴィオはほっと胸を撫ぜ下ろしていた。いきなり親戚一同の前でリアとヴィオどちらかと結婚するかもしれない話などぶちまけられてはたまらない。

 食事の席がお開きになった後も、数人の男たちはヴィオの家まで戻ってきて父やカイと酒を酌み交わしている。姉や叔母たちもその席の手伝いをしているようで、時折賑やかな笑い声が階下から聞こえてくるのだ。

 ヴィオは酒の席を心底嫌がるような、年頃の少年らしいそぶりをわざと見せて早々に自室に引きこもった。

 そしてさっそく自室で中央への旅立ちの準備考え始めていた。いつか中央に行くときのために少しずつ集めていた大事なグッズをベッドの上に並べてニコニコする。理由はどうあれ憧れていた中央に行けるというのはやっぱりうれしい。

 レイ先生に譲ってもらった中央の地図、ちょっと古いガイドブック(これは用務さんの持ち物)、学校に行くときに使っているバックパック。

 カイが話していた中央にとんぼ返りする日というのが明後日だとすれば、ヴィオの残された準備期間は今晩から明日の夜までしかないということになる。

(カイ兄さんについて中央にいったら。僕がどのバース性だったとしてもそのまま中央に残ってやる。それでなんとかジブリール様のところを訪ねていくんだ)

 ジブリール様からヴィオ(もしくは学校に)送られてくるはずの看護師の学校への入学許可の推薦に関する書類はまだ届かない。かくなるうえは直接ジブリール様に確認しに行けばよいと考えたのだ。
 とはいっても。ジブリール様の家がどこにあるのかも、実はジブリール様がどんな方なのかも、そのファミリーネームすら知らない。ジブリール様の手紙はいつも、先生たちが所属している教師の協会伝いに届いたり送ったりしているらしくて、セラフィン宛の手紙もそこに届けてもらっている。まずはその会に行ってみる。そのためには明日先生たちに住所を確認しに行かねばならない。

(うーん。先生たちに言ったら無謀だって反対されるかもしれない。名前だけでも確認出来たら自分で探せるかな? 中央の街の地図とか電車の乗り方とかレイ先生から聞いたことがあるからわかる…… 多分)

 セラフィンとジブリール様は親戚だとかで、そこからセラフィンへ手紙が届けられるのだそうだ。セラフィンからヴィオにあてた手紙には幸い住所が書いてあるから、最悪の場合は直接セラフィンの自宅に行ってみるのもいい。

(でも流石に……。直接先生に会いに行く勇気が出ないなあ)

 会いたい気持ちと、流石にそこまでは図々しくて失礼すぎるだろうという気持ちで揺れてしまう。実はこの半年、セラフィンからの返信が途切れがちになっていたのだ。最後の手紙はもう三か月前。先生はお忙しいのかもしれないが、もうヴィオのことを忘れかけているのか……。それとも5年も続くこのやり取りが煩わしくなってしまったのか。会いに行ったとき、先生に疎ましく思われたら、ヴィオはもう立ち直れないと思った。

(先生は沢山人が住んでいる中央のお医者様だもん。手紙を書く暇もないほど、きっと忙しいんだよね。元気ならいいけど、あんまり疲れて病気になっていないといいなあ)

 その時ふと浮かんだのは、先生が中央にある軍関連の病院に務めているという記憶だった。

(もしかして、バース検査を受ける病院が先生のお勤め先なら……。先生に会うこともできるのかな?)

 こっそり門の所で待っていたら会えるかな……。
 でもその前に考えておかないといけないことが山ほどがある。

(バース検査で僕がベータやアルファだったら、兄さんきっと僕に興味なくなるでしょ? 姉さんと結婚するんだし。それならもう強気でいくんだ。僕は中央で働きながら勉強したいっていって、そのまま仕事を探す。それで仕事が見つかったら手紙を書いて父さんを説得するんだ。あ、でも僕もう成人だから父さんの許可がいることなんてないよね)

 お金は小さな時からコツコツと貯めた貯金がある。これをもっていってこれからのことが決まるまでは何とか凌ぐ。

(うーん。中央とこっちでは全然物価が違うって先生が言ってた。どのくらい持っていけばいいのかな? 姉さんが銀行に行けばお金があるって言ってたけど僕の分のお金は自分で取り出せるのかよくわからない…… ああ、時間がぜんぜん足りないよ。先生たちにもっと早くに色々確認しておけばよかった)

 次の春に里を出られればいいやぐらいにのんびり考えていたのがいけなかった。こんなことになるなんて思ってもみなかったのだから。
 洋服一つでも何を着ていけばいいのかわからないし、一泊して戻ってくるぐらいならばたくさん荷物を持っていったらカイに不審がられるだろうし……。

 そんなことを考えていたら、部屋の扉がノックされた。

「ヴィオ、俺だけど」

 カイの声にびくっとし、慌てて鞄やら地図やらを掛け布団を引っぺがして裏返すとそれで覆って隠した。







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