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再会編
従兄弟の帰郷2
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それはまた早急な展開にヴィオも流石にドキドキしてしまった。里を出たがらないリアだが、街で年頃の少女たちと交流が始まってからはお洒落に興味が出てきて、若い少女らしく中央の華やかさには憧れを持っていた。大きな百貨店に行きたいとか、南国の花が見られる植物園を見たいだとか。見たことのない中央の風景に色々と夢を見ているのだろう。これは姉さんは喜んで大騒ぎをすることだろう。
(だったら、僕も一緒に連れて行ってもらえないかな。いつかは……。ジブリール様に書いた手紙の返事が色良いものであったら、中央に行けるかもしれないけど、そうでなければ当分中央になんていけない。一目だけでも先生に会いたい)
ここ数日、ヴィオが待っていた手紙は中央に住むジブリールからの返信だった。それはヴィオの進学に関する申し入れが書かれた手紙への返事であり、ヴィオのこれからにかかわる大切なものだった。
セラフィンの傍に行きたくて、あれから先生たちに色々なことを聞いて一生懸命ヴィオが考え出した答えは、医師と同じ職場で働ける看護師の資格を取るための学校への編入方法だった。
働きながら勉強ができる方法を色々と考えてくれた先生たちが、通信で今まであらかたの高校の単位を取り終わり卒業資格を得たヴィオの成績を書き記してまずは援助を得るためにジブリール様に送ってくれて、次の春には入学することができるかを頼んでくれているのだ。
現在はあきらめずに看護師の学校の講義録を学校伝いに送ってもらってそれで学んでいる。もしもジブリールの推薦が通れば、学校長を伴ってヴィオは父親と交渉をする予定だった。それまで中央に行きたいなどと父と話をしてきたことなどなかったからだ。
(会いたい、先生に会えるなら、会いたい!)
そんな欲求がすぐに頭に浮かんで、今すぐ階段から飛び出していきそうになったが、そこは必死でこらえた。父が声に出さずに頷いているのか、カイが話をつづけたからだ。
「中央に軍の病院があります。そこでバース検査を受けてもらいたいと思っています。受けたらまたここまで責任を取って送り届けます。結婚の申し入れはそのあと……。伯父上の目の前で行います」
カイから具体的に結婚の二文字がでて、いよいよかとヴィオは思ったが、そんなことよりも中央にリアを伴い帰る二人になんとか同行できないか、今まで貯めた小遣いで旅費を出すからヴィオのことも伴って中央に帰って欲しいと、いつどうカイに頼もうか。そんなことばかりが頭をめぐる。
「わかった。両親が番で兄にも一人アルファが出ているし、一族も多くアルファがいる。他の家系よりも出やすいはずだ。一度は検査を受けさせねばならないとは思っていたが、思いのほか発情期が来るのが遅くなっているのか、それともベータであるのか。もしくはアルファか。お前との婚姻する前に確認は必要不可欠なことだな。一度中央の見物をするのもよいだろう。少し外の空気に触れさせてやって欲しい。そのあとはまた当分里と中央とで離れて暮らすか……」
(バース検査……)
アルファのカイと結婚するにもやはり一度バース検査をうけるというのは大切なのだろう。なにも中央まで行かなくてもと思ったが、リアはこのようなタイミングでもなければ里から一生出ずに暮らしていくつもりなのだろう。
リアは伝統的な里の女たちのように、出稼ぎをする夫と離れて里で暮らしていくことにこだわりがあるようなのだ。常々そう言っていた。
『だってその方が楽だし、たまに中央に顔を出しに行くのもいいけど、里には親戚みんながいるもの。カイの叔母様やお姉様たちと仲良く子どもを育てていきたいわ』
「いえ、俺は結婚をしたらできれば中央で暮らしたいと思っています。俺には番と離れて暮らすなんて考えられません」
(え~! カイ兄さん、リア姉さんとその話できてるの? 大丈夫なの?)
これはひと悶着ありそうだとヴィオにもわかって、なんとなく食事の席に行くことが気が重たくなってきた。
「わかった。それは、そうだな。番は共にいることが一番だ」
父の答えは非常に重く、母を失った父の哀しみが滲む。当分降りられそうもない階段をもう一度上がりかけたその時、信じられない話が耳に飛び込んできた。
「ヴィオならば革新的な性格をしている。沢山のことを学んできたんだ。きっと中央でも生活をしていけるだろう」
(え? なんで僕の名前がでるの?)
「アガ伯父さん。それでは明後日二人を連れて中央へ行きます。
二人にバース検査を受けてもらって、ヴィオがアルファだった場合は予定通りヴィオを次の里長に。しかしもしも二人ともオメガであったら、順番から姉のリアと。ヴィオだけがオメガであったならばヴィオと番わせてください。伯父上、貴方のお子さんを、俺は絶対に幸せにして見せます。父亡き後、息子同然に育てていただいたご恩は忘れません」
最後の話はまるで耳に入らなかったし、父がどんな返事をしたのかもわからなかった。頭の中まで自分の心臓が波打つ音が聞こえてきたように鼓動が止まらなくなる。
(僕が、オメガだったら……。カイ兄さんと結婚する?!)
(だったら、僕も一緒に連れて行ってもらえないかな。いつかは……。ジブリール様に書いた手紙の返事が色良いものであったら、中央に行けるかもしれないけど、そうでなければ当分中央になんていけない。一目だけでも先生に会いたい)
ここ数日、ヴィオが待っていた手紙は中央に住むジブリールからの返信だった。それはヴィオの進学に関する申し入れが書かれた手紙への返事であり、ヴィオのこれからにかかわる大切なものだった。
セラフィンの傍に行きたくて、あれから先生たちに色々なことを聞いて一生懸命ヴィオが考え出した答えは、医師と同じ職場で働ける看護師の資格を取るための学校への編入方法だった。
働きながら勉強ができる方法を色々と考えてくれた先生たちが、通信で今まであらかたの高校の単位を取り終わり卒業資格を得たヴィオの成績を書き記してまずは援助を得るためにジブリール様に送ってくれて、次の春には入学することができるかを頼んでくれているのだ。
現在はあきらめずに看護師の学校の講義録を学校伝いに送ってもらってそれで学んでいる。もしもジブリールの推薦が通れば、学校長を伴ってヴィオは父親と交渉をする予定だった。それまで中央に行きたいなどと父と話をしてきたことなどなかったからだ。
(会いたい、先生に会えるなら、会いたい!)
そんな欲求がすぐに頭に浮かんで、今すぐ階段から飛び出していきそうになったが、そこは必死でこらえた。父が声に出さずに頷いているのか、カイが話をつづけたからだ。
「中央に軍の病院があります。そこでバース検査を受けてもらいたいと思っています。受けたらまたここまで責任を取って送り届けます。結婚の申し入れはそのあと……。伯父上の目の前で行います」
カイから具体的に結婚の二文字がでて、いよいよかとヴィオは思ったが、そんなことよりも中央にリアを伴い帰る二人になんとか同行できないか、今まで貯めた小遣いで旅費を出すからヴィオのことも伴って中央に帰って欲しいと、いつどうカイに頼もうか。そんなことばかりが頭をめぐる。
「わかった。両親が番で兄にも一人アルファが出ているし、一族も多くアルファがいる。他の家系よりも出やすいはずだ。一度は検査を受けさせねばならないとは思っていたが、思いのほか発情期が来るのが遅くなっているのか、それともベータであるのか。もしくはアルファか。お前との婚姻する前に確認は必要不可欠なことだな。一度中央の見物をするのもよいだろう。少し外の空気に触れさせてやって欲しい。そのあとはまた当分里と中央とで離れて暮らすか……」
(バース検査……)
アルファのカイと結婚するにもやはり一度バース検査をうけるというのは大切なのだろう。なにも中央まで行かなくてもと思ったが、リアはこのようなタイミングでもなければ里から一生出ずに暮らしていくつもりなのだろう。
リアは伝統的な里の女たちのように、出稼ぎをする夫と離れて里で暮らしていくことにこだわりがあるようなのだ。常々そう言っていた。
『だってその方が楽だし、たまに中央に顔を出しに行くのもいいけど、里には親戚みんながいるもの。カイの叔母様やお姉様たちと仲良く子どもを育てていきたいわ』
「いえ、俺は結婚をしたらできれば中央で暮らしたいと思っています。俺には番と離れて暮らすなんて考えられません」
(え~! カイ兄さん、リア姉さんとその話できてるの? 大丈夫なの?)
これはひと悶着ありそうだとヴィオにもわかって、なんとなく食事の席に行くことが気が重たくなってきた。
「わかった。それは、そうだな。番は共にいることが一番だ」
父の答えは非常に重く、母を失った父の哀しみが滲む。当分降りられそうもない階段をもう一度上がりかけたその時、信じられない話が耳に飛び込んできた。
「ヴィオならば革新的な性格をしている。沢山のことを学んできたんだ。きっと中央でも生活をしていけるだろう」
(え? なんで僕の名前がでるの?)
「アガ伯父さん。それでは明後日二人を連れて中央へ行きます。
二人にバース検査を受けてもらって、ヴィオがアルファだった場合は予定通りヴィオを次の里長に。しかしもしも二人ともオメガであったら、順番から姉のリアと。ヴィオだけがオメガであったならばヴィオと番わせてください。伯父上、貴方のお子さんを、俺は絶対に幸せにして見せます。父亡き後、息子同然に育てていただいたご恩は忘れません」
最後の話はまるで耳に入らなかったし、父がどんな返事をしたのかもわからなかった。頭の中まで自分の心臓が波打つ音が聞こえてきたように鼓動が止まらなくなる。
(僕が、オメガだったら……。カイ兄さんと結婚する?!)
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