香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

レイ先生4

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「アン、すまない! レイの発情に充てられた。俺の車の座席横にある革の小物入れの中に抑制剤が入ってるが、もう間に合わないかもしれない…… ラットが起きる前に俺の腕を縛り付けてくれ」

 しかし腕の中のレイが顔を真っ赤にさせながら、なおも唇を震わせ泣き叫んだ。

「いや! いいの。離さないで! カレブ。噛んで! 僕を噛んで!」
「レイ! 正気なの?! 発情に引きずられてそんなことを口走ってるんじゃないの?!」

 ぎょっとしたアンもレイを止めようと言い募るが、レイはアンに向かって静かに頷いた。だるそうではあったが、瞳の中に僅かだが普段通り彼の穏やかな光を感じる。

 アンは胸を絞りつけられる心地がした。レイが中央からここに来るまで通り抜けてきた苦難の日々を、同僚であるアンは知っているからだ。

 レイは中央にいた頃、アルファである学生時代からの親友に裏切られ、夢であった教職に仕事に就けるように取り計らう代わりに、自分の番になるように強要されていた。

 信頼する大好きな友人だったが、番として愛することはできなかった。無理して番になり関係が歪むことをレイは良しとせず、彼に背いたことによる嫌がらせにあいながらも、レイは沢山傷つきながらこの仕事をやっとみつけてここに来た。

「いいんだ」

 紅潮した頬、涙にぐしゃぐしゃになった顔のまま、レイはカレブに向き直り、大きな声ではっきりといった。

「ずっと迷っていたけど。さっき倒れたカレブをみて、決心がついた。死ぬ瞬間まで、一緒にいたい。僕たち番になろう?」

 そういうと、彼に熱烈な口づけを送ったのでアンはヴィオの頭を抱えて目を遮った。

「レイ、愛してる」

 フェロモンが迸り弾け、バニラの甘い香りと他を圧倒するアルファの森林の中のような深い香りが混ざる。それは頭を抱えられたヴィオの鼻にもわずかながら届いていた。

 寝台の上に重なり合っていく二人を見て、アンは結い上げた金髪を振り乱し、へたりこんだヴィオを引きずるようにして廊下まで出すと、何とか扉を閉めて彼の耳を塞ぐようにして抱きしめた。

「ヴィオ、しっかりして。下まで降りるわよ」

 ぺしぺしと頬を叩かれるが、身体は大きくなっても心はまだまだ柔く未成熟なヴィオにはとにかく刺激が強すぎたのだ。すっかり腰が抜けてしまって、アン先生に抱えられたまま廊下に崩れ落ちてしまう。ヴィオは言いようのない気持ちに囚われて涙が止まらず、若いアン先生も泣いていた。

 塞いでも耳を割って聞こえてくるレイ先生の甲高い嬌声に、唸るようなカレブの声。発情期のアルファとオメガ二人きりの世界の中には何人たりとも踏み込むことはできない。中の様子はあずかり知ることはできないまま、アンはなんとか自分より大きいが身体は細いヴィオを抱えて引きずると、部屋から一番遠く階段の一番上までやってきてヴィオを抱きしめて「大丈夫、大丈夫」と声をかけ続けた。何が大丈夫なのかもわからないまま、アンはそう言い続けたのだ。

 さらに半刻ほどたって、帰ってきた学校長と用務の男性がヴィオを抱え上げて一階に下がってきた。ぐったりと身体中の力が抜けたままのヴィオは学校長の部屋で休まされ、用務の男性が父親を車で呼びに行くまでそのまま寝かされていることになった。







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