香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

森の学校1

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 新しく学校ができると知り、それがセラフィンとその一族の尽力によるものだとわかった時。
ヴィオは嬉しすぎて夜眠れなくなって、翌朝は眠い目をこすりながら、夜通し考えた思いを込めて、セラフィン宛の手紙に夢中で書き綴った。

 書いてはみたものの、たどたどしくて子供っぽくて、とても上手じゃない自分の字を見て哀しくなった。
 いかにも書く訓練をしっかり受けたことのない、筆運びが弱いみっともない字で、先生のような中央の立派なお医者様にみせるには恥ずかしい。
 哀しげな顔で手紙を見下ろすヴィオの様子を丁度見ていたのは、元気になった叔母のエレノアで、彼女はこういって慰めたのだ。

「お手紙は丁寧に書いてあれば字の上手い下手は関係ないわ。それよりも学校に通ってヴィオの字が段々上手になっていったら、きっと先生も喜んでくださるわよ」

 その言葉がヴィオの胸にさらなる皓々とした希望を灯らせた。

 学校ができたのは春も終わり夏が過ぎ、再び秋が始まる頃で、ヴィオはもうその時には13歳になっていた。リアは15歳だったので年下の子どもたちばかりの学校に通うことを嫌がった。
『私はいいの。里で結婚して今まで通りの里の女の人たちみたいにゆっくりくらすからいいの。料理と街での買い物さえできればいいわ』
そんな風に嘯いていたのだ。

 森の中にある小さな学校。街と里の間にあるから子どもたちは放課後にはそれぞれの街に帰っていく。先生たちは学校の隣にある宿舎と呼ぶには可愛らしい家で暮らしていた。
 実際、今まで交流を断たれていた隣町のものと関わることが怖くなかったわけではない。しかし学校は子どもたちのものだった。子供たちは屈託なく、学校に通える喜びに満ちていたのだ。街と里の間、少し街よりに建てられた学校には、初めはヴィオも合わせて8~13歳までの子ども15人程度が集められて合同の授業から始まった。一番年上だったヴィオに年下の子どもたちはすぐに懐いてくれて、一緒に授業を受けることを揶揄うものなど誰もいなかった。

 一年ごとに子供たちが増えていき、先生も徐々に増えていった。
 初めに赴任してきた先生は中央で大学を出たての若い女性の教師と、翌年には同じく若い男性の教師。そして壮年の用務の男性と学校長を務める女性教師という、まるで一つの家族のような顔ぶれだった。

 みな初めて興されたこの学校をよくしていこうと共に助け合い大変仲が良かった。年上のヴィオは率先して彼らのお手伝いをして周り、最後にバスが出発する時刻ぎりぎりまで粘って学校にいることが多いほど居心地の良い場所だった。
 学ぶことが楽しくて、親切な先生たちは里の大人が教えてくれないような中央での話を沢山教えてくれたのだ。
 豪快で明るく、身体も大きければ声も大きい学校長や他の教師たちとお茶をいただきながらおしゃべりをする時間がヴィオは大好きだった。





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