香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

貴方の街

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 駅前の雑踏はヴィオの想像を遥かに越えていて、高くそびえたつ建物を見上げて、ただ立ちすくむことしかできなかった。

 夏でも涼しく過ごしやすいとは聞いていたがそれが逆に里の秋口の物寂しい感じにも似ていて、今日から数日自分がせねばならぬことの行程を頭に思い浮かべ緊張からよれたリュックの肩ひもをぎゅっと握りしめる。

「ヴィオ、何しているの。行くわよ」

 この日のためにとっておきの鮮やかなグリーンのワンピースでおめかしをした姉のリアは、従兄のカイの腕をとって華やかな笑顔を振りまいている。

 街を歩く女性たちも皆、膝が何とか隠れる程度の軽やかなワンピース姿だが、姉のリアの美貌はこんな都会の街中にいても際立っている。
 服装こそそこまで華美ではないのかもしれない。しかし背も高く肉感的なプロポーションを持ち、それを彩る豊かな黒髪にグリーンの瞳とワンピースはコントラストが強くて、どちらかといえば柔らかな色合いをまとう人々の中で鮮烈な印象を放っている。

 髪と瞳の色が姉とおそろいの軍服姿の従兄のカイも相当な美丈夫だから、二人の姿は一対の人形のようだ。
 街中に溶け込むことなく相当目立つ二人に気後れしたヴィオは、里にいる時よりは少しマシ程度の服装に、愛用の大きなリュックを背負って立ち尽くしていた。

 ともあれ、ヴィオはここにやってきた。夢にまで見たこの地に、やっと足を踏み入れのだ。

(来たよ。先生。僕、やっとこれたんだ)

 長い癖のある黒髪を風に吹かれながら、感慨にふけっているヴィオは煙るような長い睫毛と紫水晶に似た瞳がどこか夢見がちで頼りなげに見えたのか。
姉とはまた違う魅力のある瑞々しくしなやかな立ち姿をカイは目を細めて見下ろした。

「ヴィオ、午後の診察に間に合わなくなる。いくぞ」

 先を歩いていたカイだが、姉を残して引き返してきてヴィオの手を握ると力強く引っ張り先を促した。

(カイ兄さん、こんな街中で手を繋ぐなんて。僕が迷子になるって決めつけてるな)

 成人したてとはいえ18歳にもなって子供扱いされたことが恥ずかしくて頬を染めたヴィオは、さりげなくその手を外そうとする。しかし迷子になると困ると思われたのか、カイの大きく硬い手は握りなおされ外れない。

 弟をつれて戻ってきたカイの逆の腕を再びリアが取ると、三人は連れ立って街路樹のプラタナスが青々と茂り涼し気な影を落とす通りを歩いて行った。


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