26 / 222
邂逅編
冬の日の別れ4
しおりを挟む
「綺麗な布だね。そうしているとヴィオ、花嫁さんみたいだな」
戦後以後豊かな中央地域では花嫁衣装がとにかく派手好みとなり、今は鮮やかな赤が人気であるとジルの姉が話していた。それが脳裏にあったジルがお得意の軽口を叩いたのだ。ヴィオはぽぽっと顔を赤くした後、むぐっと口をつぐむ前に一言ぽつりと漏らした。
「これ、死んだ母様のだったんだって。僕この色が好きだからたまに使ってた。……変だよね」
これはまたまずい話を振ってしまったとジルが深く反省する前にきっぱりとしたセラフィンの声がした。
「変じゃないよ」
セラフィンは立ち止まり、じっとヴィオを見下ろしてきた。赤いショールを取ろうとしていた子供らしい暖かな手を柔らかく包み込み、ジルすら見たことがないほど穏やかで暖かな笑みを浮かべる。
そして外の清々しくも冷たい空気を大きく吸い込みながら、ヴィオのことを一気に高く抱え上げた。
「とても似合っている。赤が綺麗な瞳に映えるな。美しいよ、ヴィオ。お前は家族思いの、優しくて勇気のある素敵な子だ。だから自分を卑下したり、みっともなく思う必要はどこにもない。勉強だったらこれからいくらでもできる。沢山学んで自信を持つんだ。そうしてお前が行きたいところにいって、会いたい人に会って。しなやかに強く生きていくんだ。お前を待っている人がきっと世界のどこかにいるはずだよ」
「僕を待っている人?」
「そうだ。ヴィオを待っている人」
(僕を待っている人……)
高い高いをされるように大切に掲げられ、腕の中で腰かけさせられたヴィオは、空をうつしてより真っ青に見えるセラフィンの澄み渡る冴え冴えとした瞳を見下ろしていた。
(僕を待っていてくれる人なら、僕は先生がいいな。先生が待っていてくれるなら、沢山勉強して僕は先生の傍に行きたい……)
「沢山勉強したら……」
「なんだい?」
あまりにセラフィンの瞳が真剣で今まで見た人の中で一番に綺麗に見えて、気後れしたヴィオはその願いを言えず、思いの丈を伝えるようにセラフィンの首に抱き着くことしかできなかった。
戦後以後豊かな中央地域では花嫁衣装がとにかく派手好みとなり、今は鮮やかな赤が人気であるとジルの姉が話していた。それが脳裏にあったジルがお得意の軽口を叩いたのだ。ヴィオはぽぽっと顔を赤くした後、むぐっと口をつぐむ前に一言ぽつりと漏らした。
「これ、死んだ母様のだったんだって。僕この色が好きだからたまに使ってた。……変だよね」
これはまたまずい話を振ってしまったとジルが深く反省する前にきっぱりとしたセラフィンの声がした。
「変じゃないよ」
セラフィンは立ち止まり、じっとヴィオを見下ろしてきた。赤いショールを取ろうとしていた子供らしい暖かな手を柔らかく包み込み、ジルすら見たことがないほど穏やかで暖かな笑みを浮かべる。
そして外の清々しくも冷たい空気を大きく吸い込みながら、ヴィオのことを一気に高く抱え上げた。
「とても似合っている。赤が綺麗な瞳に映えるな。美しいよ、ヴィオ。お前は家族思いの、優しくて勇気のある素敵な子だ。だから自分を卑下したり、みっともなく思う必要はどこにもない。勉強だったらこれからいくらでもできる。沢山学んで自信を持つんだ。そうしてお前が行きたいところにいって、会いたい人に会って。しなやかに強く生きていくんだ。お前を待っている人がきっと世界のどこかにいるはずだよ」
「僕を待っている人?」
「そうだ。ヴィオを待っている人」
(僕を待っている人……)
高い高いをされるように大切に掲げられ、腕の中で腰かけさせられたヴィオは、空をうつしてより真っ青に見えるセラフィンの澄み渡る冴え冴えとした瞳を見下ろしていた。
(僕を待っていてくれる人なら、僕は先生がいいな。先生が待っていてくれるなら、沢山勉強して僕は先生の傍に行きたい……)
「沢山勉強したら……」
「なんだい?」
あまりにセラフィンの瞳が真剣で今まで見た人の中で一番に綺麗に見えて、気後れしたヴィオはその願いを言えず、思いの丈を伝えるようにセラフィンの首に抱き着くことしかできなかった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~
人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。
残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。
そうした事故で、二人は番になり、結婚した。
しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。
須田は、自分のことが好きじゃない。
それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。
須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。
そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。
ついに、一線を超えてしまった。
帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。
※本編完結
※特殊設定あります
※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)

欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる