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邂逅編
冬の日の別れ3
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「例えば…… ドリ派は成り立ちは大地の女神が沢山の夫とちぎってできた子の一人といわれているのだろう? 夫たちは大地にある樹木とか穀物とかその一つが獣。でもソートでは大気の神が自らの旅の同行者として選んだのが獣人だったと。人の子より素早く動けるからと。海に縁があるウリ派はこの国の海辺に暮らす人々と同じく海の女神を信奉している。そういう成り立ち伝説みたいなものも好きだ。
中央では人間は天空の神と大地に生まれた愛の女神との子孫だとか言われているからこの二柱が人気だからまるで違うだろう?」
「すごいねえ。先生ジョナ婆みたいに物知り。僕も勉強沢山したいなあ」
そういった顔が哀し気でセラフィンの心に深く残った。耳の遠いジョナ婆は娘に耳元で大きく通訳してもらったのち、大きく頷いてから結構大きな声で自分が話し始めた。
「この里のはじまりの家族も、大地の女神様のようだったそうだ。はじまりの里長は自身がオメガでの。多くの夫を持ち、沢山の素晴らしい子を産み落とし、里は栄えていったといわれている。大地の女神になぞって、大変尊敬された。ヴィオのご先祖様だ。男たちより強く、女たちより強く。そのどちらも持ち合わせていたという」
「男性のオメガだったという話なのよ」
セラフィンとジルの脳裏にはこの深い山里を駆ける、強靭ながらもしなやかに美しいその姿が目に浮かぶようだった。そしてその顔は、リアやヴィオの顔に似ているような気がした。
「まあ、実際は男性のオメガなんてめったに生まれるものじゃないからね。
私はみたこともないわ。一族は血も濃いし、なんとなく似たような雰囲気の人が生まれがちだわね。でもこの里、これから本当にどうなるのかしら。だってヴィオちゃんのお兄さんたちはみんな外にでて戻って来やしないし、リアちゃんは一族の誰かに嫁ぐだろうし、ヴィオちゃんはまだ小さいから家を継ぐなんてねえ」
おしゃべりジョナ婆の娘は外から来たみ目麗しい若者たちを前に、口が軽くなったのか、ヴィオがお菓子を頬張るのを止めて哀し気な顔をするのも気にせずにぺらぺらとそんな話をした。
「わかりました。もう結構です。ヴィオの勉強を見てあげる約束をしていたんだった。ヴィオおいで」
くりっとした目を見開くヴィオの手を引いてセラフィンは会釈するとさっさと家を後にした。表に出るとヴィオはまだびっくりした顔のまま、大人しくセラフィンの手を握り返した。
「そんな約束してないよ」
「いいや。本当に。ヴィオが勉強したいっていっていたから、俺たちで今はどのくらいできるか見てあげるね。ジルもまあ、結構頭いいだろ?」
「俺は勉強嫌いです。要領だけで生きてきました」
「頭がいい奴の言うセリフだな」
「そっくりそのまま先生にお返ししますよ」
「嬉しいなあ。僕の部屋に二人が来てくれるの。嬉しいな」
そう言いながらもヴィオはまたにこにことして、寒さをしのぐために頭の半ばから羽織った大人の女性向きの緋色の毛で織られたショールをひらひらとさせた。
端に美しく縫い込まれた手刺繍はどこか別のフェル族の一派で見かけたような気がする複雑な文様で、丁寧な花の刺繍が美麗な布だ。
その鮮やかな色は美しくも神秘的なヴィオの瞳によく映えていた。
中央では人間は天空の神と大地に生まれた愛の女神との子孫だとか言われているからこの二柱が人気だからまるで違うだろう?」
「すごいねえ。先生ジョナ婆みたいに物知り。僕も勉強沢山したいなあ」
そういった顔が哀し気でセラフィンの心に深く残った。耳の遠いジョナ婆は娘に耳元で大きく通訳してもらったのち、大きく頷いてから結構大きな声で自分が話し始めた。
「この里のはじまりの家族も、大地の女神様のようだったそうだ。はじまりの里長は自身がオメガでの。多くの夫を持ち、沢山の素晴らしい子を産み落とし、里は栄えていったといわれている。大地の女神になぞって、大変尊敬された。ヴィオのご先祖様だ。男たちより強く、女たちより強く。そのどちらも持ち合わせていたという」
「男性のオメガだったという話なのよ」
セラフィンとジルの脳裏にはこの深い山里を駆ける、強靭ながらもしなやかに美しいその姿が目に浮かぶようだった。そしてその顔は、リアやヴィオの顔に似ているような気がした。
「まあ、実際は男性のオメガなんてめったに生まれるものじゃないからね。
私はみたこともないわ。一族は血も濃いし、なんとなく似たような雰囲気の人が生まれがちだわね。でもこの里、これから本当にどうなるのかしら。だってヴィオちゃんのお兄さんたちはみんな外にでて戻って来やしないし、リアちゃんは一族の誰かに嫁ぐだろうし、ヴィオちゃんはまだ小さいから家を継ぐなんてねえ」
おしゃべりジョナ婆の娘は外から来たみ目麗しい若者たちを前に、口が軽くなったのか、ヴィオがお菓子を頬張るのを止めて哀し気な顔をするのも気にせずにぺらぺらとそんな話をした。
「わかりました。もう結構です。ヴィオの勉強を見てあげる約束をしていたんだった。ヴィオおいで」
くりっとした目を見開くヴィオの手を引いてセラフィンは会釈するとさっさと家を後にした。表に出るとヴィオはまだびっくりした顔のまま、大人しくセラフィンの手を握り返した。
「そんな約束してないよ」
「いいや。本当に。ヴィオが勉強したいっていっていたから、俺たちで今はどのくらいできるか見てあげるね。ジルもまあ、結構頭いいだろ?」
「俺は勉強嫌いです。要領だけで生きてきました」
「頭がいい奴の言うセリフだな」
「そっくりそのまま先生にお返ししますよ」
「嬉しいなあ。僕の部屋に二人が来てくれるの。嬉しいな」
そう言いながらもヴィオはまたにこにことして、寒さをしのぐために頭の半ばから羽織った大人の女性向きの緋色の毛で織られたショールをひらひらとさせた。
端に美しく縫い込まれた手刺繍はどこか別のフェル族の一派で見かけたような気がする複雑な文様で、丁寧な花の刺繍が美麗な布だ。
その鮮やかな色は美しくも神秘的なヴィオの瞳によく映えていた。
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