香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

冬の日の別れ2

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 美しい緑色の瞳に黒檀のように真っ黒な髪をした凛々しさと同時に華もある若者だった。先ほどエレノアの家であった女性の弟にあたるそうだ。里長であるアガにも面差しが似ていて、甥と言われて納得だ。
 隣りでは頬を染めたリアが彼の腕に腕を絡ませくっつくようにして、うっとりと下から見上げているからきっとリアは彼のことが好きなのだろう。

「叔母さんも待ってるから行きましょう! カイ。好物沢山作ったんだからね。みんなでいただきましょう」
「こら、リア。呼びつけはやめろって。先生たちも是非」

 出稼ぎに出ていた若者たちが沢山の土産や日用品をもって帰ってきて、里の中では外れの方にある集会場で昼から宴会の席を設けることになっていたのだそうだ。

「いや。ご家族とゆっくりお話ができる大切な機会でしょう。私たちはご遠慮しますよ。それにジョナさんに里の昔話をうかがうところなんです。昨日はアドさんとお話することもできました。私はね、フェル族の民話や伝説について国中の里を訪ねて研究させてもらっているんです」

「ジョナ婆とお話するんですね! 足腰弱ってから話し相手が少なくて寂しがってるらしいです。むしろよろしくお願いします。へえ、先生お医者様なだけじゃなくてそんなこともされているんですね。俺もいつか出世したら中央勤務になる日もあるかもしれないので、その時は先生の病院に寄らせてもらいます」
「先生たちのお食事は家に運ばせてもらいますね。待っててください」

 きちんと頭を下げると、リアに腕を取られて集会所の方にあるいていった。
 一緒についていくのかと思ったらヴィオはセラフィンにくっついてきた。

「料理は後で僕が運ぶから大丈夫だよ!」
「いいのか? 従兄弟のお兄ちゃんに会えるの久しぶりなんじゃないのか?」

 ヴィオは首をふるふる振ると、にっこり笑ってまたセラフィンの袖を掴んできた。
「いいんだ。カイ兄のことはリア姉が好きなの。だから邪魔しない方がいいんだよ」
「おませだな。ヴィオ」

 そういってやや癖のある光沢がありすぎて逆に少し灰色がかって見える黒髪をジルが撫ぜてやると、あどけなくくすくす笑っていた。

 ジョナ婆はこの里の最高齢。雪崩の時も村のはずれにいて助かった。村を襲った雪崩は国の無計画なダム工事のために起こされた人災だ。これはセラフィンの一族とも深くかかわる事件のため、よく知っている事件だったが、委細は昨晩アドから伝え聞いた。

 当時村のはずれにいたもの、比較的真ん中あたりにいたもので生死は分かれた。しかし誰一人としてその人生が変えられなかった者はいない。
 当時まだ一歳だったヴィオは、母親が長女と共に当時の里長だったヴィオの祖父の家に行っていて、そこで被災した。幼いヴィオとリアはお留守番をするためちょうどエレノアに面倒を見てもらっていて、エレノアはリアとヴィオをつれて里の外れのこのジョナ婆の家に届け物をしに来たあとおやつをいただき、休憩をしていて助かったのだ。

 麓の村に来ていたヴィオの父やその息子であり当時から別の場所で働いていた長男次男は助かったが、ヴィオは一歳にして母をはじめとした多くの親族を失ったのだ。

「元の里の場所を見に行くことはできるんですか?」

 ジルの問いにジョナ婆とその娘である壮年の女性は首を振った。

「もう整備されていなくて道が塞がってしまっていると思うから土地のものでも行くことは容易ではないと思いますよ」
「そうですか」
「先生は、どうしてフェル族が気になるの?」

 至極まともな意見をお菓子を食べ食べヴィオが聞いてきた。この地方の伝統的な焼き菓子には甘く煮た芋が入っていてとろりとして美味しい。

 ジルが気づかわし気にちらりとセラフィンをみたがセラフィンは顔色を変えずにお茶をいただく。

「そうだな。ある人物が気にかかって。そのあとはフェル族の一派がそれぞれ持つ伝説とか、特殊な力とか。そういったものに興味がでてきたんだ」

「例えばどんな?」
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