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邂逅編
彼の温み1
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扉の向こうが誰かはわからない。ここは旅先。そして隠れ里のような場所。
よそ者を快く思わないものが二人の様子を監視していなかったとも限らない。
「どなたですか?」
枕元に置いておいたシャツも羽織って、隣の部屋の奥にある入り口に向かって歩きながら声をかける。身体の方はいつでも咄嗟に動けるように意識を扉に集中させていた。
ジルもバネのように素早く飛び起きると、やや警戒するようにセラフィンの背中越しに扉を見つめ警戒した。
「せんせい、僕。ヴィオだよ」
扉の向こうから、拍子抜けするほど少しだけ高い可愛らしい声が返事した。
セラフィンはすぐさま扉に駆け寄って鍵を開けて外を覗き込む。そこには白い息を吐きながら、掛布団を一生懸命に抱えた寝巻姿のヴィオが立っていた。
思いがけない訪問に驚いたセラフィンだが、扉から吹き抜けていく風の強さに速やかに彼から布団を軽々と取り上げるとすぐさま中に招き入れた。
「どうしたんだい? こんなに遅くに……」
入り口の照明を消していたので後ろの部屋から漏れる光でしかよくわからないから、そのまま寝室まで連れて行く。心得えているジルは先ほどまでの妖しい雰囲気を微塵も感じさせず、品行方正に自分の寝台の上で布団にくるまっていた。
「あのね。ここ、山の中だからすごく寒いんだって。僕らはずっとここに住んでるから慣れてるけど。中央?の方から来た人には寒すぎると思って。暖房はまだ雪が降るまでいれないから…… 先生風邪ひいたら大変だから」
上掛けと毛布を一枚ずつ持ってきてくれが、使い込んだ見た目は普段ヴィオが使っているものなのは明らかだった。何と返していいかセラフィンが迷っているとヴィオはニコニコしながら続けてきた。
「あと、先生から借りてた上着お返しするの。姉さんにどうしたら洗濯できるかわからなくって、頼んだのだけど。こういう上等なお洋服は勝手に洗ったらだめになるから返してきなさいって。本当にあったかかったよ。ありがとう先生」
ふわっと笑った顔はぽかぽかした陽だまりに咲く菫の花のように愛らしかった。
明かりの下でみるヴィオの瞳は、初めて見るような本当に不思議な色合いだった。深い紫色の瞳の中に、大きな金色の環が明かりに照らされて炎のように揺ら揺らと動いているのが見える。
フェル族の中でもドリ派特有の瞳だが、これほどまでに複雑な美しい色合いと胸に迫るほどの迫力ある虹彩を初めて見た。金属を流しいれた高価な色硝子でもこれほど複雑で生き生きとした色合いはだせないであろう。
「先生? 迷惑だった?」
黙ってしまったセラフィンに急に不安を募らせたヴィオが、ぷるっと身体を震わせたので冷え切ってしまったのかと寝台に布団を置いて肩を引き寄せた。
「迷惑じゃないけど、この布団ヴィオのじゃないのか?」
「そうだけど……」
「俺たちが使ってしまったら、ヴィオが風邪をひくだろ?」
後ろからジルが追い打ちをかけるが、ヴィオは再びセラフィンのシャツの袖先を引っ張ってきた。
「僕もここで寝ちゃダメ?」
そんな風に可愛らしくおねだりしながら、またセラフィンの袖をきゅっと引っ張ってきた。愛らしい仕草にセラフィンは驚きながらもまた知らず自然に微笑んでしまった。
「え?!」
今度は驚いて慌てたのはジルの方だった。セラフィンはジルを見下ろして、
「ふふんっ」と人の悪そうな笑みを浮かべると、掛布団の赤い毛布の方をジルに放ってやった。
よそ者を快く思わないものが二人の様子を監視していなかったとも限らない。
「どなたですか?」
枕元に置いておいたシャツも羽織って、隣の部屋の奥にある入り口に向かって歩きながら声をかける。身体の方はいつでも咄嗟に動けるように意識を扉に集中させていた。
ジルもバネのように素早く飛び起きると、やや警戒するようにセラフィンの背中越しに扉を見つめ警戒した。
「せんせい、僕。ヴィオだよ」
扉の向こうから、拍子抜けするほど少しだけ高い可愛らしい声が返事した。
セラフィンはすぐさま扉に駆け寄って鍵を開けて外を覗き込む。そこには白い息を吐きながら、掛布団を一生懸命に抱えた寝巻姿のヴィオが立っていた。
思いがけない訪問に驚いたセラフィンだが、扉から吹き抜けていく風の強さに速やかに彼から布団を軽々と取り上げるとすぐさま中に招き入れた。
「どうしたんだい? こんなに遅くに……」
入り口の照明を消していたので後ろの部屋から漏れる光でしかよくわからないから、そのまま寝室まで連れて行く。心得えているジルは先ほどまでの妖しい雰囲気を微塵も感じさせず、品行方正に自分の寝台の上で布団にくるまっていた。
「あのね。ここ、山の中だからすごく寒いんだって。僕らはずっとここに住んでるから慣れてるけど。中央?の方から来た人には寒すぎると思って。暖房はまだ雪が降るまでいれないから…… 先生風邪ひいたら大変だから」
上掛けと毛布を一枚ずつ持ってきてくれが、使い込んだ見た目は普段ヴィオが使っているものなのは明らかだった。何と返していいかセラフィンが迷っているとヴィオはニコニコしながら続けてきた。
「あと、先生から借りてた上着お返しするの。姉さんにどうしたら洗濯できるかわからなくって、頼んだのだけど。こういう上等なお洋服は勝手に洗ったらだめになるから返してきなさいって。本当にあったかかったよ。ありがとう先生」
ふわっと笑った顔はぽかぽかした陽だまりに咲く菫の花のように愛らしかった。
明かりの下でみるヴィオの瞳は、初めて見るような本当に不思議な色合いだった。深い紫色の瞳の中に、大きな金色の環が明かりに照らされて炎のように揺ら揺らと動いているのが見える。
フェル族の中でもドリ派特有の瞳だが、これほどまでに複雑な美しい色合いと胸に迫るほどの迫力ある虹彩を初めて見た。金属を流しいれた高価な色硝子でもこれほど複雑で生き生きとした色合いはだせないであろう。
「先生? 迷惑だった?」
黙ってしまったセラフィンに急に不安を募らせたヴィオが、ぷるっと身体を震わせたので冷え切ってしまったのかと寝台に布団を置いて肩を引き寄せた。
「迷惑じゃないけど、この布団ヴィオのじゃないのか?」
「そうだけど……」
「俺たちが使ってしまったら、ヴィオが風邪をひくだろ?」
後ろからジルが追い打ちをかけるが、ヴィオは再びセラフィンのシャツの袖先を引っ張ってきた。
「僕もここで寝ちゃダメ?」
そんな風に可愛らしくおねだりしながら、またセラフィンの袖をきゅっと引っ張ってきた。愛らしい仕草にセラフィンは驚きながらもまた知らず自然に微笑んでしまった。
「え?!」
今度は驚いて慌てたのはジルの方だった。セラフィンはジルを見下ろして、
「ふふんっ」と人の悪そうな笑みを浮かべると、掛布団の赤い毛布の方をジルに放ってやった。
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