香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

ある情愛2

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「やっぱりバルクさんが睨んでた通りだな。ドリの里は国のダム建設が原因の雪崩で半分以上の人を失った後、里の復興で意見が割れて、さらにそのあと仕事を求めて各地に散って……。ここは里というよりもはや一つの家族が暮らしている小さな集落っていう態だな。これ以上この里の復興は望めないのかもしれないな」

「……アガさんは元の場所での復興にこだわって、長男はもっと里を大きくできる利便性の良い場所への移転を望んだ。意見が纏まらぬまま中途半端に国からお仕着せで作られたのがこの里。このあたりの山を自分たちのものだと思い込んでいた隣町のものたちとはいがみ合うことになり、混乱の中さらに里から出ていく者が増えたと。ヴィオが学校に通いそこなっていたのはそのあたりの事情らしい」

 必要以上にセラフィンが構っているように見えるヴィオの話題が出たので、ジルは自分でも気が付かぬほど、そこはかとない悋気を見せて、話題をゆっくりと変えていった。

「本当に小さな里だ。とても静かだな…… 中央の喧騒が忘れられるね。このところ俺も先生も忙しかったから、中々会えなかった」

 いいしな、セラフィンの濡れた黒髪ごと、右手で右肩を掴んで引き寄せる。そして青い宝石を宿したような柔らかな目元にそっと口づけた。

「ジルっ」

 咎めるような声を出されるが、セラフィン出会いから数年、ジルを信頼し彼に甘くなりよほどのことがない限りその手を拒まないことをジルは知っている。

 知っていて左手で男にしては繊細な造りの顔の形良い顎に手をかけるとシャワーを浴びて熱い唇にねっとりと口づける。日頃やられてばかりではないセラフィンが攻めてくるときにまさぐる口の中の性感帯を、逆にジルが先回りして攻め立てる。ここが気持ちいいとわかっているからなぞる場所は、結局セラフィンが好きな場所だという発想だ。

 流石にアルファの男同士。どちらかがとろとろに蕩ける、ということはないがジルはセラフィンの姿かたちを非常に愛しているためこうしているだけで天にも昇る気持ちになる。

「あっ……、やめろって……」

 大きな手でジルの淡い金髪に手を差し入れてまさぐりながら、そんなことを言って拒まれるから、逆にジルは興奮を高めていく。

「俺とでかけるってことは、こういうこと込みって、先生知ってるでしょ?」
「ちゃんと飯は奢るって約束の旅だ、それで五分五分だろ?」
「俺にはこれが、最高のご馳走ですよ」

 まだ素肌を晒したままのセラフィンの鍛え上げられた美しい筋肉の付いた身体をゆっくり押し倒し、首元に舌を這わす。中央から持ち込んだバスグッズはジルもセラフィンにプレゼントされてから愛用している。貴重な香料が爽やかながら甘く、男を惑わすような香りと思ってしまうのは恋慕うセラフィンが付けているからだろうか。
 しつこく耳や首筋を舐められていたセラフィンがジルの腕を逆手に取り上げて締め上げ、マウントを痛みで外させようとするが、彼が腕を折るまでのことをしないと知っているジルは素知らぬ顔で胸の飾りを触るか触らないかの焦れるような刺激を残して腰から脇まで撫で上げる。

「やめろ! ジル! あとつけるな!」

 ジルはその言葉を無視して、そのままちゅくっと首筋を吸い上げると赤い花が咲く。

「先生のこの首のほくろ。色っぽくて…… 見てるとこうしたくてたまんなくなるんだよ」

 掠れた声に欲を感じ、セラフィンは逆に勝ち気な性格を刺激される。

「よくもやったな」

 長い舌をだし、唇を餌にしてジルを誘うと、深い口づけに夢中になる酔っ払いの隙をついて股間をきつく掴み上げると、流石にジルは呻いて身じろぎする。

 その動きを見ながら膝を腹に一撃入れようとしたとき、物音が聞こえた気がしてセラフィンは動きを止めた。それをいいことにジルが今度はセラフィンの胸元に舌を這わそうと頭を近づけてくるから、セラフィンはその頭を掴み上げた。

「おい、やめろって。音がしている」
「風かなんかでしょ?」
「いや違うから、あっ…… 舐めるな! 」

 セラフィンが暴れて今度こそ足の裏でジルの腹をどかすように蹴り上げる。もんどりうってジルが転がるのを押しのけるようにして寝台から飛び起きる。耳を澄ますとやはり空耳ではなかったようだ。小さなこの家の扉が、トントンと外側から叩かれていたのだった。









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