香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

フェル族 1

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 里全体が眠っているかのような、静かな闇の中に沈んでいた。
だからその違和感に気が付くのが遅れていたが、先ほどのヴィオの叔母の家と、こうしてきたヴィオの家の中に入ってセラフィンが感じた違和感は確信に変わった。傍らのジルもそれは感じたのか、しげしげと熱心に家の中を眺めている。
 入り口の設え、間取り、通されたダイニングや山里に似合わぬキッチンの設備。

(中央郊外の新興住宅地で少し前に流行ったモダン住宅に似ているな)

 今までセラフィンとジルが訪れたフェル族の村とは雰囲気がまるで違う。彼らは自分たちの独自の文化風習を大切にし、伝統的な建築物に民俗学的に非常に価値ある彼ら独自の品々を飾っていることが多かった。

 フェル族の一派ウリのものならば都会に出ている青年でも、耳から首、肩の先まで連なる伝統文様の入れ墨を入れて、自宅の壁に巨大な木のボード(家の前に置く魔除け)も置かれていたぐらい、文化を大切にしている。
しかしこの家はまるでフェル族の者が住んでいるという痕跡がないのだ。

「先生たち、食事もまだだろう。リア、用意を」
「はい。先生、ありがとうございます。沢山召し上がってもらわなくちゃ」

 ダイニングテーブルに座る二人をもてなしてくれるのはヴィオの父と姉のリアだけ。母親の姿はなく、ヴィオが話していたとおりいないようだ。他の兄弟の姿も見当たらない。電気はついているが、明るさは都会の半分以下のように闇に吸い込まれ気味で、村全体と同じくなにか物寂しい暗さが部屋全体に漂っていた。

「お口に合うかわからないけど、どうぞ召し上がってください」

 そんな雰囲気を壊すように、生き生きと美しいリアは次々と明るい声を出してこの地域伝統の身体の温まるスープと硬いパンを出してきてくれた。
ヴィオの姿は見えないからもう寝るように言われて自室にかえったのだろうか。

「パンは硬いから、スープに浸しながらゆっくり食べてくださいね」

「ありがとうございます」

 滋味あふれる鳥の入ったスープを2人は粛々と黙っていただく。すっかり空になるまで飲み干すとそれを待っていたかのように大きなテーブルの一番先端、家長の席と思わしき所に座っていたアガから大きな焼き物のコップを二つ渡された。

 茶色い椀に近い大きさの素朴な作品だ。手の大きな人々が作ったに違いない重みがある。刻まれた紋は部屋の中には見当たらないがドリで伝わってきた文様なのだろうか。

 そこにどっぷりと酒を注がれてじっと二人の出方を待つようにアガがまた金色の瞳を光らせてきた。

「先生、ジルさん、さあ飲んでくれ」

 立ち上る酒気からこの酒の強さを慮るが、実はこう見えて一見優男のジルもセラフィンも酒が強い。一概には言えないがアルファはそもそも酒が強いのではないかとジルはいうが、検証しきれてないとセラフィンは一蹴していた。それでも二人で飲んでつぶれたことはないのだ。

 
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