香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

里長2

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(まさにフェル族といったところだな)

 僅かに息をのんだセラフィンは、しかし表情を崩さず毅然とたたずんだ。

 彫の深い野性的な貌は端正かもしれないが厳しく、若干うねりのある黒髪を後ろになでつけている。
 背丈は中央では高い方である二人よりもさらに大きく、身体の厚みといったら軍でもあまり見ないほどの大きさ。
 堂々たるその立ち姿は一国の王のような風格すらある。

「ヴィオ! 心配したんだからね」

 ヴィオによく似た面差しの、こちらは正真正銘の美少女が父の後ろから飛び出してきて、セラフィンの隣を離れぬ弟を無理やり抱きしめてきた。

 長い黒髪なのも同じ、背丈も似通っているから、何も知らなければ双子の姉妹のように映ったかもしれない。もちろん立ち姿は姉の方がやや肉感的でより性的な魅力を放っている。

 ヴィオの父は依然厳めしい表情のままだったので、ジルがいつものように仲立ちしようと口を開きかけたが、その前に珍しくセラフィンが彼に一礼した。

「私は中央で軍医をしております。セラフィン・モルスと申します。こちらは連れで、中央で警察官をしているジル・アドニアです。アペルの街で薬局が探せず迷子になっていた息子さんを基地の前で保護しました」

 ヴィオもセラフィンの話に合わせてこくこくと頷く。琥珀色まで金色の光が収まってきた父の睥睨する眼差しからは逃れられず、それでも立ち向かうようにヴィオは父を睨み返した。意外なヴィオの気丈さにジルは暗がりで口元に笑みを浮かべる。ちゃんと言われたことを全うしようとしている、と。

 基地での出来事はその後、彼を送り届けたり、叔母さんを診たりと支援を行うことを約束し、ヴィオに口止めしていた。
 まだ幼い、思考も及ばぬ少年の口封じをするようで気分はよくないところだったが、基地の所長もヴィオに謝罪し、必ず彼らを厳罰に処すると約束させたのでそれで手打ちにしてもらった。

「ヴィオ、一人で勝手に街に出て挙句、人様に迷惑をかけて、お前は」
「ごめんなさい。父さん。でも……、見てられなかったんだよ!」
「明日には皆が薬も持って帰ってくる」
「でもお医者様がきてくださるわけじゃないでしょ? 治るとは限らない! この方はお医者様なんだよ! 早く叔母さんを見てもらいたく……」
「お前は先に家帰るんだ。リア、ヴィオを連れて家に戻りなさい」
「いやだよ! 叔母様を早く見てもらいたい!!」
 親子のやり取りは流石に口をはさめず、セラフィンもジルも黙って成り行きを見守っていた。
声の大きさと共にセラフィンの指先を握り返す力は強くなる。しかしセラフィンはここらへんで潮時だろうとそっともう片方の手を添えて、一度優しく握ると、ゆっくりと握った手を離していった。







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