香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

里長1

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 一本道だ。途中にヴィオの言っていた隣町らしき小さな町もあり、一刻ほど走った程度で地図上で見当をつけた目的の場所にたどり着いた。

 山道はとてもとても暗く、いつまでも目が慣れない。
 ここに里などあるのだろうかと思うほどの暗さだ。
 街灯がなんとか一つ、集落の入り口にぽつんとあるほか、細い山のあぜ道にそって小さな家がぽつんぽつんとあり、さらに明かりのついている家と言ったらさらに少なくまばらだ。車を大きな道が途絶えたあたりに頭から突っ込むように置いて、流石に邪魔だろうと少し下がる。

(街よりさらに寂れた集落だな)

 ヴィオの手前、流石に口には出さなかったが、セラフィンもジルも思うところは一緒だったのか車から降りて懐中電灯を手に、互いに浮かぬ顔を見合わせた。

 眠そうに後部座席に座っていたヴィオも飛び起きて、三人はそろって集落の入り口にたった。

 その時半ばほどの高さにあった家の方で明かりがゆらりと動き、少女の高い声が静かな山里に響き渡った。

「ヴィオ!? ヴィオなの?」
「姉さん! 帰ってきたよ!!」

 明かりが夜行の動物の目のように素早く動いて、建物の中に飛び込んでいった。

「姉さん?」
「そう。リア姉さんだと思う。あの辺、うちがあるから。もしかしたら…… 僕の帰りを待っていてくれたんだと思う。姉さんにだけは外にでるっていってきたから」

「おいおい、他には誰にも言ってこなかったのか?」

 ジルの言葉に沈んだように一瞬くるっとカールした睫毛を伏せたが、すぐに顔を上げてセラフィンの左袖を掴んだ。

「父さんのところへは僕が後で話をしに行くから、叔母さんのところに先に一緒に行ってほしい。叔母さんの家はもうちょっと上にある、二つ並んだ明かりの左側。お願い」

 セラフィンはもちろんすぐに叔母を見てやりたかったが、ヴィオに合わせてかがむと首を振る。

「それは駄目だ。まずは里の長に挨拶をしなければならない。叔母さんは体調がとても悪いのだろう? その場合は医療行為をする了承を君のお父さんに取らねばならないかもしれない。それに君の無事を知らせることがまず一番に大切だろう。ほら見て」

 先ほどと同じ小さな明かりが二つ、すごい速度であぜ道を下ってくるのが見えた。まるで大きな獣が駆け下りてくるような迫力ある動き。

 ほどなくその人物は三人の前に姿を現した。

「!!」

 思わず、くらっとするほどの圧を感じて、青年二人は踏みとどまるように片足を一方に引き下げ、目を見開いて対峙する。おそらくアルファ。
しかもセラフィンとジルを押して、かなり強いと感じるほどの。


「ヴィオ! 」

 その銅鑼がなったような大迫力の一声だけでヴィオは震えあがり、ぎゅぎゅっと強くセラフィンの袖を握りしめわが身の方に引いてきたから、セラフィンは思わず指先で素早くヴィオの薄い手を探り、軽く握ってやる。

 ヴィオの父、里の長は兎に角大きかった。見上げるほどの大男であり、まずその存在感がすごい。夜目にも目立つ、セラフィンたちの持つ明かりや街灯を反射して光る、金色の目。まるで獣の王が人の姿をとって表れたようだ。

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