香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

邂逅5

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ヴィオを掴まえていない方の男が、ヴィオから彼に興味をうつしたようにニヤニヤしながらあまり背丈の変わらぬその肩に手を置いた。ヴィオはぶるっと身体を震わせて立ち上がろうと足に力を込める。
 しかしぱあんっと大きな音を立てて男の腕は払われ、美しい青年が低く艶のある声で唸るように言い放った。

「俺に触るな。その子を置いて大人しく出ていけ」

 静かだが有無を言わせぬ、尊大な声色に再び男たちが色めきだった。

「はあ? なにいってんだ? お前こそ怪我したくなかったらでていけ」

「喧しい、失せろ」

 それは何かすごく怖いものが帳のように一瞬で周囲を覆ったような、そんな圧倒的な気配。ヴィオは全身が総毛立ち、一瞬武者震いのような沸き立つ震えが身体を駆け抜け、視界が狭まる心地になった。

 頭の上でぐらりと大きな影がヴィオを覆う。驚いて見上げると、声もなく、ヴィオを押さえつけていた男が大きく傾いできた。

「あ!!」

 ヴィオが倒れてくる大きな身体からわが身を守ろうと、頭を手で覆って身を縮める。しかし男がヴィオに向かって倒れ落ちてくることはなかった。
 頭の上でどかっというすごい音がして、黒髪の麗人がものすごい勢いで長い脚を一閃させ、男の側頭部を横から蹴り飛ばしたのだ。もちろんヴィオが下敷きにならないように守るためだ。
 もう一人の男も後ろ向きに泡を吹いて伸びていて、何が何だかわからずヴィオは心臓がどきどきとしたままそのまま腰を抜かしたようになってしまった。

 すると黒髪の男が床に這いつくばったままのヴィオをひょいっと裏返して膝上に抱き上げてきた。破かれた服に気が付きすぐ眉を顰める。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ」

 着ていた温かで上等な上着を素早く脱いで、ヴィオの全身を包んでやる。ふわっと温みが全身に広がり、ヴィオは子猫のように身を震わせた。

「あ、ああ」

 今さらながら身体の震えが止まらなくなり、ぽろぽろと涙を流すヴィオを、男は黙ってやんわり抱きしめている。見た目は優美だが、彼は見た目よりずっと頼りがいのある、逞しく熱い身体だった。衣服からも彼の爽やかで甘い香りが立ち上り、それを嗅いだヴィオは張りつめていた気持ちが融けて涙が止まらない。

 泣きじゃくる少年の身体を美貌の青年は眉を下げて困った顔をしながらその背を擦ってやった。

 泣き声もまだまだ高く、見た目すら年頃の美少女のようにも見えなくもない。多分このエキゾチックで蠱惑的といえるほど欲をそそる顔に目をつけられたのだろう。しかし表情を取り繕わずに顔中をくしゃくしゃにして涙を流すその仕草をみて、彼が思っているよりずっと幼いのではと悟ったのだ。

 少年の着ていたくすんだ緑色のローブと、寒々しい程踝がむき出しのすらりとした足先に見覚えがあり、細いその身体を抱えなおして、男はできるだけ優し気な顔を作って泣きぬれた目元を覗き込んだ。
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