香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
3 / 222
邂逅編

邂逅2

しおりを挟む
 険しげな声にヴィオは身をすくめて声の方を仰ぎ見る。暗い色の外套に身を包んだ若い男2人、大きな車用の門でなく小さな通用門の前に立っていた。

 ぱさ、と外れかけていたくすんだ緑色のフードがヴィオの背の方に落ちる。
褐色よりの張りのある肌に、小さな顔の中で印象的な輝く大きな瞳。彩るのは癖がある少しくすんだ豊かな黒髪。肉感的な赤い唇と、蠱惑的にすらみえる容姿。男たちはフードからこぼれたヴィオの黒髪とその下に見える愛らしい顔に釘づけになった。

「ここ、あの」

「なにか困ってるのか? こんなところに可愛い女の子が一人でいるなんて危ないなあ」

 背がそれなりに高くほっそりしたその姿は、年頃の少女の様にも見えたのだろう。
 急に馴れ馴れしく話しかけてきたが、ヴィオは話しかけてくれたことだけでも嬉しかった。じわっと涙で大きな瞳が潤み、ふっくらした赤い唇を開く。

「あの、ここ、病院? 傷と熱に効く薬、探してて」

 上手に説明したいのに、言葉に詰まってたどたどしくしか答えられないのがもどかしい。
 縋るように吸い込まれそうな大きなヘリオトロープに似た紫色の瞳にじっと上目遣いに見つめられ、男たちは思わず生唾を飲み込んだ。

「そこに書いてあるだろ?」

 門には看板が取り付けられておりそこに文字が書いてあるが、ヴィオは首を振る。簡単な読み書きしかできないヴィオには崩した文字で書いてある難しい単語はまるで分らないのだ。

 恥ずかしくて顔を伏せるヴィオの頭の上で、男たちはにやにや嗤いながら目配せをしあった。

「薬ぐらいわけてやれるから、俺たちとこないか? 一緒なら中に入れる」

 男の一人が素早く煙草を一箱、門の隣の守衛室に投げ入れるように渡すと、中の年老いた門番はあきれるような顔をしながら中へ三人を通す。

 ぐいっと熱い大きな手で細い手首を掴まれ、大柄な男たち二人に挟まれるようにして半ば強引に塀の中へと連れ込まれていった。

「あっちにあるから」

 男たちはそれっきり何も言わない。
 塀の中は案外広かった。手前の大きな建物の中にすぐに入るのかと思ったら、雑木林がある奥の暗い方にどんどん連れていかれてヴィオは怖くなってしまった。

「手、離して」

 ぎゅっと抵抗するように腕を引いたら、もう一人の男に小脇に抱えられてしまった。

「離して!」

 声を上げた口を大きな手でふさがれて、逃れようと足をばたつかせるが屈強な男にはまるで歯が立たない。

 暗い倉庫のようなところに押し込まれて、床に投げ落とされて痛み呻いていると、顔を紅潮させ、ハアハアと息を荒げながら興奮気味の男におもむろに上からのしかかられた。

「薬ならあとでやるから、代わりに、なあ、いいだろ?」
「なに? やだ、やだやだ!」

 恐怖で身体がすくむ。まだ幼いヴィオには何をされそうになっているのかよくはわからない。しかし何か怖いことをさせていることだけは本能で分かった。

 膝から下も長く、しなやかな筋肉の付いた足で男の顔を蹴り上げると、腕の力でばねの様に起き上がる。しかし今度は後ろからもう一人の男に羽交い絞めにされた。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】 ────────── 身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。 力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。 ※シリアス 溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。 表紙:七賀

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。 残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。 そうした事故で、二人は番になり、結婚した。 しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。 須田は、自分のことが好きじゃない。 それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。 須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。 そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。 ついに、一線を超えてしまった。 帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。 ※本編完結 ※特殊設定あります ※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)

番の拷

安馬川 隠
BL
オメガバースの世界線の物語 ・α性の幼馴染み二人に番だと言われ続けるβ性の話『番の拷』 ・α性の同級生が知った世界

処理中です...