香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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邂逅編

邂逅1

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 だんだん暗くなってきた空に、心細さで胸が締め付けられる。吐く息は白く、
 でもそんなことに構っている暇は一時だってない。

(急げ、急いで探すんだ)

 そう気持ちは急くが初めての場所、初めての街。一人で里から出たこともほとんどない幼いヴィオには、この場所のどこに何があるのかもてんで見当がつかなかった。それでもどうしても探し出さないといけない。
 今、里の男でここまでくる余裕のあるものなどほかにいないのだ。

(僕が助けないと。薬、お医者様、どこにいるの? エレノア叔母さん、僕が帰るまで、頑張って待ってて)

 心がせいて泥が露出した道に足元をすくわれそうになる。

 母や一族の大半を事故で失った時からヴィオの母親代わりとなってくれた叔母のエレノアには、まだ3つの小さな息子もいる。ここで命を落とすことなどあってはならない。なのに薬一つ手に入れられないだけで、こんなことになるなんて。

 里長である父は村を離れられない。大人の男たちの大半は別の場所で仕事をしているものが多くて明日にならないと誰も帰っても来ない。僅かに残る男たちも小さな子供と女ばかりの里を守るためには里を開けるわけにはいかないのだ。
 子どもの頃から山歩きをしていて足腰が強いのが自慢のヴィオでも、一番近いの街のさらに隣の街であるここまで来るのに、徒歩で半日がかりとなってしまった。
 小さな巾着袋に少しずつ貯めた小遣いを入れ、首から下げていた紐をぎゅっと握りしめる。少しずつ暮れてゆく街並みに心細さがあふれ、涙が滲みそうになる。

 人が多いところがまだ苦手で、生来は人懐っこいが流石に場所見知りをしてしまい、誰かに声をかけることもできなかった。否、粗末なフードを被った明らかに山から来たよそ者のヴィオの容姿をみただけで、関わり合いにならないようにと目を合わせず無視をされてしまうことばかりだ。
 経験不足から薬を売る店がどこなのかもわからず、意を決してそれらしい店に入ろうとしたが出てきた大人の男の人に睨みつけられてから怖くて走って逃げてきてしまった。それからは一番店があった辺りからもどんどん遠ざかって街の外れまできてしまった。勇気を出して人を探して声をかける気持ちもどんどんくじけてしまう。

 (大きな、立派な建物ならばお医者様もいる?)

 先程からずっと長い煉瓦づくりの塀沿いに歩いている。点々と街灯がついている辺りから伺いみると、中に大きな建物が見える。ここならばお医者さまもいるのではと思ったのだ。
 ぽつぽつと雨粒も落ち始めた。痩せたヴィオは我が身を両腕で抱きかかえてぶるりと身を震わせた。

 少し先、街灯が照らすあたりに門が開き、車が入っていくのがみえる。思い切ってそこに向かって泥水をはねながら走り出す。

(ああ、しまっちゃう)

 しかし車が入りきったら大きな木製の門はすぐに閉められてしまってヴィオは門の前に立ち尽くした。

 雨足も少しずつ強くなり外れてしまったフードを被り直そうとしたとき、横から声をかけられた。

「おまえ、ここでなにしている?」

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