観念しようね、レモンくん

５

「バイトしなくても必要なものは叔母さんが買ってくれてるし、小遣いだって足りてるだろ？　行きたいところがあったらこれまで通り俺たちが連れてく」
「世間知らずのれーちゃんにバイトさせるなんて心配だなあ。ちゃんと勉強と両立できるの？　可愛いれーちゃんにこれ以上どんな悪い虫がつくかわかんないし……。それにバスケする時間減っちゃうよ？」
「悪い虫って……。俺男だよ？」
「「はあ～」」

　碧と翠に代わる代わる左右から聞こえるステレオの如く説得された上、ため息を疲れ麗紋はむむっと口ごもる。

「バスケする時間減るのはやだけどさ、でも色んな出会いもあるし、バイトすると人生の経験値が上がるって加賀谷が言ってた」

　加賀谷、の名前に二人が左右それぞれの眉を鏡合わせのようにぴくりっと上げる。さすが双子というべき息の合った様子で、二人は顔を見合わせてから麗紋をじっと見つめてきた。

「な、なに？」
「なにも加賀谷と同じバイト先に行かなくても、そんなにバイトしたいなら、俺らと同じところにくればいい。なあ？　翠」
「そうだな。店長に話し通しとくよ。ただし部活と勉強優先のシフトね」　
　その申し出には麗紋も大きな目を瞬かせ、にぱっと顔を明るくした。
「やったあ。あそこのカフェ、高校生じゃ中々受からないって言われてるらしいよね？　嬉しい」

　幼い頃二人を虜にした麗らかな笑顔が久しぶりに見られて双子は内心胸をときめかせる。麗紋が二人が洗濯の為に持ち帰るギャルソンエプロンを巻いては羨ましそうにしていたことは双子にとっては織り込み済みなのだ。

「ところで麗紋。聞くが、三年の優勝クラスと対決して勝てたらってことでもいいな？」

　碧に確認されて麗紋は内心焦った

（一年生ではうちのクラスがバスケ部集中してるから優勝余裕って思ってたけど……）

「まさか碧兄と翠兄、球技大会バスケで出るの？　狡くない？」
「そうか。俺たちのクラスには勝てないのか？　まあそうかもしれんな」
「れーちゃん、加賀谷たち現役バスケ部連中でチーム作るんだろ？　挑戦もしないでやめるの？」
「うぐっ。……勝てる」

　ついこの間までバスケ部のエースだった二人がでたら無双と言えるだろう。とはいえ麗紋も自分のクラスにバスケ部員が五人揃っていると踏んで申し出た勝負だ。これで後には引けなくなった。

（いやでも、これってチャンスなんじゃないか？　今までずっと二人のお荷物とか我儘お姫様とかさんざん陰口叩かれてきた俺が、二人に勝って実力で周りを黙らせるとか、恰好いいかも）

　負けず嫌いの麗紋が明らかにやる気を漲らせたのが顔にでている。

「焼肉な？　前に行ったのと同じ店でいいか？　食べ放題のとこ。予約しとくか。勝っても負けても行こう」
「賛成！　碧、店の予約よろしく」
「ん、了解」

　碧は責任感の強い長兄らしく早速スマホを弄りながら独り言に近い調子で呟いた。
「登下校と昼食はなあ、このまま一緒じゃ駄目か？　俺たちあと少しで卒業するし、年が明けたら直ぐ自由登校になるんだぞ。いやでも一緒いられなくなる」