香りの比翼 Ωの香水

鳩愛

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貴方のダンスが見てみたい1

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☆本篇エピローグ後、数年後のお話になります。少し成長したソフィアリとそれを溺愛するラグの二人は
後程でてきます。よろしくお願いいたします。


来てしまった…… ついに……

建物がところ狭しと立ち並び陰りの多い故郷の街から、何も遮るもののない眩しい日差しがキラキラと降り注ぐ場所へ。

トマスは馬車の窓から身体を乗り出し、眼下に広がる宝石のような翠緑の湾を初めてみつけた。
そしてその色彩のあまりの鮮やかな美しさに感動し思わず大声で叫んだ。

「絵葉書のとおりだ~」

舗装されていない田舎道は車で通るには走りにくいと駅で言われ、わざわざゆったり馬車でここまできた。

土煙が舞い埃っぽいのと中央よりずっと暑いのには参ったが、国内を一晩かけて列車で南下しやっとここまでたどり着けたのだ。
初めての一人旅。抱えた荷物には沢山のお土産を詰め込んだ。
(やっと君に会える! ソフィアリ)




それはあまりにも、色っぽく魅惑的な誘い。
南国の風景を写した絵葉書に、汽車の切符。
さらに添えられた、紫色の香水瓶。
その芳香は文章よりも雄弁に君を語る。

君の元へいざ行かん。
一路、南の楽園。ハレへの街へ。




中央にある高等教育学校はそのまま同じ敷地内に大学部がある。さらにいうと中等年学校という年少の子どもたちが通う学校もある。

トマスは一昨年の春からその大学部に通い始めた。
大学部には進学するために中央に上京してきたものも混じってくるが、大抵は持ち上がって進学してきた幼い頃からの顔見知りが多い。

しかし、そこにあの少年の姿がなかったことに、薄々わかっていたとはいえ失望を隠しきれなかった。ひょっこり大学部から戻ってくるのではと、淡い期待を寄せていたからだ。

その彼の名は、ソフィアリ・モルス。

学校始まって以来の秀才と名高かった双子の片割れ。
トマスは高等教育学校では飛び級してきた彼らと少しだけ同学年で過ごしていた。

高等教育学校には明星と呼ばれる学生自治を司る組織がある。
家柄の良い成績優秀者の最上級生が前年の冬から前任者の推薦で入るのが習わしである。
学校の中でも限られた生徒しか使うことができない談話室を使える為、またそういう者たちはアルファが多いため特権意識を持ちがちだ。

しかしソフィアリは違った。成績優秀ということでは抜群であり、1年の終わりから飛び級生としてサロンを使っていたが、年齢が一つ年下という理由で明星には選ばれていなかった。
元よりソフィアリにしか興味のない弟のセラフィンと共に二つ並んだ秀麗な美貌はいつも周りの注目を浴びていたが、だからといってそれを鼻にかけ威張り散らしたりはしない。誰に対してもはっきりと物を言い、しかし分け隔てのない気持ちの良い性格だ。

日頃明星に劣等感を抱いていた他の生徒達もこのときとばかりに、今年の明星は一番の成績優秀者が集まったものじゃないなどと陰口を言ったりもした。

しかしそんな中、同年齢では学年一位であるのに、セラフィンとソフィアリの次点になってしまった、トマスの友人ブラントの変わり身は早かった。

美しく賢い年下のソフィアリに対して、信奉者であり一番の友人を公言しだしたのだ。
そのさまはまるで友人というよりも一人の恋する男のようだと周囲に言わしめるほどの熱の入れようだった。
元々この学校が男子校だった頃から、こうして自分が信奉する相手と兄弟のような関係になり親しく過ごすことは伝統的にあったものだ。しかしトマスからみると彼のその思いはどちらかというとブラントばかりが彼に肩入れしているように見えた。

とはいえ、ソフィアリには彼にいつもべったりで近づくものに目を光らせる弟がいる。
ソフィアリを間に入れた奇妙な敵対関係に、二人の友人であり明星でもあるトマスとコーデルはいつも巻き込まれる形になっていたのだった。

しかし、そのソフィアリはある日忽然と皆の前から姿を消した。
明星のサロンは文字通り星を失ったかのようにその輝きをなくし、ブラントの落ち込みようは半端なかった。

噂は色々あったが有力だったのは外交官をしていた彼の長兄のいる国へ、卒業を待たずに留学したのではないかとのことだった。

というのもその後弟のセラフィンも兄の後を追うようにして学校を去り、その行先がテグニ国への留学だったからというのだ。
それならば旅立つ前にそういってくれても良かったのに…… やはりソフィアリは同学年になってからの半年に満たない程度の付き合いでは自分達に心を許してはいなかったのだろうかとみな寂しく思った。

しかし、ある出来事の直後からからブラントが妙なことを言い出したのだ。


ソフィアリは、実はオメガだったのではないかと。
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