36 / 52
リナリアを胸に抱いて
10
しおりを挟む
二人でソファーに並んで腰かけ、ゲームをしている最中に珍しく母が帰ってきた。普段は職場近くにあるマンションで寝泊まりしているようで、こちらに居つかない。母はついにこの家での役目を終え、出ていく準備を着々と進めているようだった。
最近、やっと運命の相手と再会できたと、そちらには足しげく通っている。嬉しそうな顔を隠そうともしないのが、逆に清々しい。明るい色の服を着て、前に会った時よりずっと華やいだ雰囲気を醸し出していた。母は気持ちに余裕が生まれたのか、機嫌よく透に挨拶をし、興味深そうに二人を見た後、また仕事に戻っていった。
そんな母を見送る時、少し前だったら自分では制御しようもない寂しさに襲われていたものだが、今はどうとも思わない。
(透さんが隣にいるからなのかな……)
透の身体に少しだけ寄り掛かると、彼も逆に身体を傾けてくれる。その重みと温みが、冷房で冷えた身体に染み入る。
「透さんのその服さ、全部兄さんが選んだやつだろ」
ゲームすら、コツを掴んだら雷には造作もないことだった。すぐに得手になった雷と違って、今の一言で動揺した透はすぐさまゲームオーバーになってしまう。
「分かってるよ。似合ってないだろ」
いかにもハイブランドの服で恋人を着飾らせそうな、気障な高校生。兄の選びそうな服だと思った。
「兄さんの好きそうな感じ」
少し嫉妬が混じってしまったかもしれない。雷だって透に似合いそうな服を選んで着せてあげたい。からかうと透は真っ赤な顔で反論してきた。
「僕が着てきた服、どっかいっちゃったんだ。朔が用意してくれた部屋のクローゼットにある服、どれでも着ればいいって言われたんだけど、……これ、なんか女性ものっぽく見えるよね。一応男性用みたいなんだけど、あんまり着ない色の服と素材だからちょっと恥ずかしいんだ。料理もしにくいし……。僕、普段は叔父さんのお古のTシャツとパンツとかシンプルな奴しか着ないし、うちそんなに裕福な方じゃないから、こういう生地も柔らかな服、なんかちょっと、僕には分不相応っていうか……」
「その色、透さんに似合ってるよ、綺麗だと思う。でも……」
雷は目線を真っすぐ画面を見ながら付け加えた。
「別にブランドの服じゃなくても、あんたなら何着ても綺麗なんじゃないかと思う」
お世辞を言ったつもりもなく、何気なく呟いた言葉だった。
透の明るい髪色、光に透けるとビー玉みたいに淡い色の瞳。飾り立てなくてもこの人は内面からにじみ出た柔らかさで、十分美しいと思う。
「へっ……。今どきの小学生、すごいなあ。雷君も将来イケメンになりそうだね。朔の弟だし」
「兄さんと、僕は違うから。……ゲーム飽きた。もうやめよ」
むっとして雷は口を曲げる。兄と比べられることは普段は何とも思わないのに、この人に言われるとついムキになってしまう。
最近、やっと運命の相手と再会できたと、そちらには足しげく通っている。嬉しそうな顔を隠そうともしないのが、逆に清々しい。明るい色の服を着て、前に会った時よりずっと華やいだ雰囲気を醸し出していた。母は気持ちに余裕が生まれたのか、機嫌よく透に挨拶をし、興味深そうに二人を見た後、また仕事に戻っていった。
そんな母を見送る時、少し前だったら自分では制御しようもない寂しさに襲われていたものだが、今はどうとも思わない。
(透さんが隣にいるからなのかな……)
透の身体に少しだけ寄り掛かると、彼も逆に身体を傾けてくれる。その重みと温みが、冷房で冷えた身体に染み入る。
「透さんのその服さ、全部兄さんが選んだやつだろ」
ゲームすら、コツを掴んだら雷には造作もないことだった。すぐに得手になった雷と違って、今の一言で動揺した透はすぐさまゲームオーバーになってしまう。
「分かってるよ。似合ってないだろ」
いかにもハイブランドの服で恋人を着飾らせそうな、気障な高校生。兄の選びそうな服だと思った。
「兄さんの好きそうな感じ」
少し嫉妬が混じってしまったかもしれない。雷だって透に似合いそうな服を選んで着せてあげたい。からかうと透は真っ赤な顔で反論してきた。
「僕が着てきた服、どっかいっちゃったんだ。朔が用意してくれた部屋のクローゼットにある服、どれでも着ればいいって言われたんだけど、……これ、なんか女性ものっぽく見えるよね。一応男性用みたいなんだけど、あんまり着ない色の服と素材だからちょっと恥ずかしいんだ。料理もしにくいし……。僕、普段は叔父さんのお古のTシャツとパンツとかシンプルな奴しか着ないし、うちそんなに裕福な方じゃないから、こういう生地も柔らかな服、なんかちょっと、僕には分不相応っていうか……」
「その色、透さんに似合ってるよ、綺麗だと思う。でも……」
雷は目線を真っすぐ画面を見ながら付け加えた。
「別にブランドの服じゃなくても、あんたなら何着ても綺麗なんじゃないかと思う」
お世辞を言ったつもりもなく、何気なく呟いた言葉だった。
透の明るい髪色、光に透けるとビー玉みたいに淡い色の瞳。飾り立てなくてもこの人は内面からにじみ出た柔らかさで、十分美しいと思う。
「へっ……。今どきの小学生、すごいなあ。雷君も将来イケメンになりそうだね。朔の弟だし」
「兄さんと、僕は違うから。……ゲーム飽きた。もうやめよ」
むっとして雷は口を曲げる。兄と比べられることは普段は何とも思わないのに、この人に言われるとついムキになってしまう。
16
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる