フリージアを嫌わないで

天埜鳩愛

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フリージアを嫌わないで

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 あの日、目を覚ました時に枕元に置かれていたフリージア。きらきらと輝いて甘く透に愛を語った。

「透さん。俺は絶対に貴方を手放したりしないから。貴方は安心して、好きなだけ俺に愛情を注いでください。俺はずっと、貴方に憧れていました」
「伏見君……」
「俺の恋人になってください」

 強く抱きしめられて、その情熱に眩暈がするほどだ。酒が今更回ってきて、顔も身体も熱く火照る。頭の中がぐちゃぐちゃで、判断力すらかき混ぜられて、でも身体の奥から愛される多幸感がどっと押し寄せてくる。

(もう僕の人生で、これほど人に想われることがあるのだろうか)

 思い出の中にしかいない男と、生身の体温を分け与えてくれる男。
 彼の腕に抱かれ、小さくしゃくりあげたら最後の涙がぽろっと零れた。

(こんないい男。拒めるわけないよね)

「寒いから、今だけ、君のこと、利用するのかもしれないよ? 湯たんぽみたいに」

 伏見の厚みのある筋肉質な胴に腕を回してしがみ付きながら、最後の意地とばかりに悪ぶってみる。透はもぞもぞと腕の中から涙で鼻先を真っ赤にした上目遣いに伏見を見ると、彼は年下だというのに蕩けるように優しく慈愛に満ちた眼差しを向けてきた。

「いいよ。沢山温めてあげるね」
「じゃあ、君は今晩、僕の湯たんぽ兼、恋人だね。優しく温めて」

 心身ともに温めてくれる人が凍える晩にはきっと必要だ。

※※※

 どうしてもシャワーを浴びたいといったら、シャツをはだけさせ、引き締まった胸筋を見せつけながら、そんな事必要ないと年下の男はベッドに腰かけ余裕ありげに笑っていた。

「透さん、逃げないで」 
「流石に逃げたりしないよ、でも一日仕事した後だし」
「すました制服姿のままの貴方を抱いて乱したいってずっと思ってた。だから大人しくこっちにおいで」

 そんな色っぽい台詞を二十歳そこそこの青年から言われると思わなくて、酒でほんのり赤く染まった頬が余計に熱くなった。

「そんなこと考えてたの? ほんと困った子だよね」

 手首を掴まれ立ったまま抱き寄せられると、甘えるように透の腰に手を回し、頭をぐりりっと透の胸に押し当ててきた。
 そんな仕草は大きな身体の癖に何だかいとけなく思える。ようやく見えた彼のつむじを眺めながら、犬にするようにまだ少し湿った髪ごと頭を撫ぜる。子供扱いだと嫌がるかと思ったら大人しくされるがままだった。

「それ、気持ちいい」
「ふふ。膝枕でもしよっか?」
 自分もベッドの上に座ると、興の乗った透は彼の頭を膝の上に載せてやる。
「えい、このまま眠ってしまえ」

 屈んで高い鼻先に口づけたら、むず痒そうにイケメンがはにかんだ。

(このままひたすら甘やかして、添い寝するのも心地よいかもな。彼、体温高そうだからよく眠れそう)

 前髪を乱して額を露わにすれば、少しだけ表情が幼く見える。

(五つも年下。まだ学生。可愛いに決まってる)

 端整な輪郭をなぞってからゆっくりと髪を梳き上げてやると、目を閉じ寛いだ顔を見せた。

「気持ちいい。すごく、癒される。戻ってきたって感じがする」
「どこに? 家にかな」
「……」

(本当に、綺麗な顔。鼻も高くて、横顔も彫刻みたい)

 こんなに美しい子に自分なんぞが手を出してもいいのだろうか。
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