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その頃突然消えたレノの周囲では、本当に大変なことになっていたのだ。
その日いつもどおり朝早くから学園に出勤し、ひと呼吸おいてからハーブティーを飲もうとしていたロキナは、非常に不機嫌な顔でやってきた恋人の様子にただならぬものを感じて驚いた。
「マティアス殿どうしたのですか?」
あらたまって呼ぶ恋人に抱きつきながら、
ユノはつかれた様子で肩口に顔を埋める。
「ユノと呼べよ。ほとんど徹夜して辛いんだ。少し寝かせろ」
寝るならば家におとなしく帰ればよいのに、何故かロキナのもとにやってくる。
その身体を無碍にできずに抱き止めてやり、赤毛を撫ぜてやった。
「朝早く屋敷の方に連絡がはいった。
朝方ミレから帰ってきて仮眠中だったのに、
くそっ」
「ただ事でないですね。あなたが呼び出されるなんて」
なにか国家にまつわる大事が起こったのだろうか。
不安げにきゅっと恋人に抱きつくロキナに、ユノは忌々しげに悪態をつく。
「うちのバカ弟がいなくなったらしい。リーズの祖父母から連絡が入った」
「え! レノ様が」
驚いて体を離すロキナが面白くなくて、ユノは憮然とした顔をした。
「弟ごときを様付で呼ぶな。サナがいなくなったと思ったらあいつに手がかかるとか、忌々しい」
今は遠方にいて会えないロキナが溺愛する弟子の名を出して、寂しがるロキナをいたぶるようにいう。好きな子を虐めるタイプの男なのだ。
複雑な顔をして眉をひそめる美しい恋人に、ユノは面白くなさそうな顔で返した。
「あなたの弟君でしょう? どうして優しくできないのです」
すると皮肉げに赤紫の瞳を光らせ、ロキナに唇を寄せた。
「お前が構うやつは、誰だって邪魔だ」
嫉妬深い恋人はロキナが他のものに気を配ることを非常に嫌がるのだ。
今も啄むようにはじまった口づけから、息をも奪うような激しさにさらされ、まだ朝の日差しの白白とした明るさの準備室に夜の気配をもたらそうとする。
「あん……っ やめて」
机の上に押し倒され、ローブの下の白いシャツ越しに胸の頂きを探られる。
このままこんな場所で暴かれてしまうのが嫌で抵抗するが、身勝手な恋人は愛撫の手を緩めないのだ。
しかしその放埒な行為は、部屋の扉がノックされたことによって中断される。
「ロキナ先生。技術専院の方から伝令が入っています」
ユノに抱き起こされてお互いに顔を見合わせる。技術専院からの連絡など相手はディラン意外にないが、ユノは自分の良く知らない交友関係もひどく嫌がるのでどうしたものかなと思う。それでなくともディランという男は不思議に満ちた存在なのだから。
しかし何か急用ができたのだろうと思い、手を握って引き止めるような素振りを見せるユノの手を、仕方なく逆に引っ張ってあるき出す。
こういうときは下手に隠さずに連れて行くほうが良さそうだ。
「魔伝石は学長室の隣の部屋にしかないからそこに行きます」
「お前が専院の奴らと面識があるとは知らなかったな」
咎めるような声色を出されてカチンとくるが、ここでなにか言い返すと、部屋に連れ戻されて無理矢理に抱くぐらいのことはする奴なのだ。
「今は、こちらとあちらで共同の技術開発をすることもあるんです」
「それは、相手の顔を拝んでおかないとなあ?」
ディランと知り合って1年半、どうにかバレずに友人関係を続けてこれたがこれが潮時か……
せっかく学生時代以降久しぶりにできた友人だったのだが。
束縛の激しいユノにかつて他の都市から来た学者に言い寄られていたと知られ、二週間ほど自宅に監禁されたときは開放後、相手の男は二度とこの街を訪れる事はなくなっていた。そしてロキナも口で言えないようなお仕置きを沢山されたのだった……
ディランはこの街の名士の息子だし、本人もかなりタフだから大丈夫だと思うが。
伝令の相手がディランじゃありませんように!
内心祈っていたのだが、しかし魔伝石の相手はそのディランからの伝言を伝えてきた。
至急伝えたいことがあるのでシーグリン商会の本店まで来てほしいという内容だった。
なにか胸騒ぎがする。
ユノの赤みの強い紫の瞳に、久しぶりに剣呑な光が宿った。
「私はディラン先生のところに行きますが、ユノはレノくんを探しに行ってください」
「はあ? レノはいま騎士団が総員あげて探してるからそのうち見つかるだろ。この街から夜に出ていくには通行門のどれかでないと出れんどうせ城下町の中にいる」
これはついてくる気満々だ……
ロキナはため息をついて、もはや考えを合理的に切り替えた。
「では、ユノに城下町まで連れて行ってもらいますね」
先方を驚かせないように先ぶれとして紅の騎士団の副団長の同行を伝えてもらった。
ややこしいことになった……
紅の騎士団副団長を足で使うことで腹いせをしようとロキナは内心ため息を付きながら、恋人にお願いをした。
その日いつもどおり朝早くから学園に出勤し、ひと呼吸おいてからハーブティーを飲もうとしていたロキナは、非常に不機嫌な顔でやってきた恋人の様子にただならぬものを感じて驚いた。
「マティアス殿どうしたのですか?」
あらたまって呼ぶ恋人に抱きつきながら、
ユノはつかれた様子で肩口に顔を埋める。
「ユノと呼べよ。ほとんど徹夜して辛いんだ。少し寝かせろ」
寝るならば家におとなしく帰ればよいのに、何故かロキナのもとにやってくる。
その身体を無碍にできずに抱き止めてやり、赤毛を撫ぜてやった。
「朝早く屋敷の方に連絡がはいった。
朝方ミレから帰ってきて仮眠中だったのに、
くそっ」
「ただ事でないですね。あなたが呼び出されるなんて」
なにか国家にまつわる大事が起こったのだろうか。
不安げにきゅっと恋人に抱きつくロキナに、ユノは忌々しげに悪態をつく。
「うちのバカ弟がいなくなったらしい。リーズの祖父母から連絡が入った」
「え! レノ様が」
驚いて体を離すロキナが面白くなくて、ユノは憮然とした顔をした。
「弟ごときを様付で呼ぶな。サナがいなくなったと思ったらあいつに手がかかるとか、忌々しい」
今は遠方にいて会えないロキナが溺愛する弟子の名を出して、寂しがるロキナをいたぶるようにいう。好きな子を虐めるタイプの男なのだ。
複雑な顔をして眉をひそめる美しい恋人に、ユノは面白くなさそうな顔で返した。
「あなたの弟君でしょう? どうして優しくできないのです」
すると皮肉げに赤紫の瞳を光らせ、ロキナに唇を寄せた。
「お前が構うやつは、誰だって邪魔だ」
嫉妬深い恋人はロキナが他のものに気を配ることを非常に嫌がるのだ。
今も啄むようにはじまった口づけから、息をも奪うような激しさにさらされ、まだ朝の日差しの白白とした明るさの準備室に夜の気配をもたらそうとする。
「あん……っ やめて」
机の上に押し倒され、ローブの下の白いシャツ越しに胸の頂きを探られる。
このままこんな場所で暴かれてしまうのが嫌で抵抗するが、身勝手な恋人は愛撫の手を緩めないのだ。
しかしその放埒な行為は、部屋の扉がノックされたことによって中断される。
「ロキナ先生。技術専院の方から伝令が入っています」
ユノに抱き起こされてお互いに顔を見合わせる。技術専院からの連絡など相手はディラン意外にないが、ユノは自分の良く知らない交友関係もひどく嫌がるのでどうしたものかなと思う。それでなくともディランという男は不思議に満ちた存在なのだから。
しかし何か急用ができたのだろうと思い、手を握って引き止めるような素振りを見せるユノの手を、仕方なく逆に引っ張ってあるき出す。
こういうときは下手に隠さずに連れて行くほうが良さそうだ。
「魔伝石は学長室の隣の部屋にしかないからそこに行きます」
「お前が専院の奴らと面識があるとは知らなかったな」
咎めるような声色を出されてカチンとくるが、ここでなにか言い返すと、部屋に連れ戻されて無理矢理に抱くぐらいのことはする奴なのだ。
「今は、こちらとあちらで共同の技術開発をすることもあるんです」
「それは、相手の顔を拝んでおかないとなあ?」
ディランと知り合って1年半、どうにかバレずに友人関係を続けてこれたがこれが潮時か……
せっかく学生時代以降久しぶりにできた友人だったのだが。
束縛の激しいユノにかつて他の都市から来た学者に言い寄られていたと知られ、二週間ほど自宅に監禁されたときは開放後、相手の男は二度とこの街を訪れる事はなくなっていた。そしてロキナも口で言えないようなお仕置きを沢山されたのだった……
ディランはこの街の名士の息子だし、本人もかなりタフだから大丈夫だと思うが。
伝令の相手がディランじゃありませんように!
内心祈っていたのだが、しかし魔伝石の相手はそのディランからの伝言を伝えてきた。
至急伝えたいことがあるのでシーグリン商会の本店まで来てほしいという内容だった。
なにか胸騒ぎがする。
ユノの赤みの強い紫の瞳に、久しぶりに剣呑な光が宿った。
「私はディラン先生のところに行きますが、ユノはレノくんを探しに行ってください」
「はあ? レノはいま騎士団が総員あげて探してるからそのうち見つかるだろ。この街から夜に出ていくには通行門のどれかでないと出れんどうせ城下町の中にいる」
これはついてくる気満々だ……
ロキナはため息をついて、もはや考えを合理的に切り替えた。
「では、ユノに城下町まで連れて行ってもらいますね」
先方を驚かせないように先ぶれとして紅の騎士団の副団長の同行を伝えてもらった。
ややこしいことになった……
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