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「あー楽しかった。あんたやるわね」
寸止めどころかわざと棍棒をコツンコツン当てられたところが痛むが、思い切り暴れ回ったおかげでレノは気分爽快だった。
二人そろって手足を投げ出し道場の床に寝転び、竹で編まれた天井板をみる。
開け放った窓からは雨上がりの少しだけ冷えた風が吹き、火照った身体を冷ましてくれる。
身体と共に昼間から興奮で鎮まることがなかった心もゆっくりと落ち着きを取り戻し、レノはふと、普段から思っていたことをぽつりとつぶやいた。
「俺は、本当に全然まだまだだな。こんな華奢な身体してるから、力押しに弱い。だから皆俺に言う事を聞かせて、都合よく扱おうとする」
自分よりも圧倒的に強い相手にあたったせいか、ディランがずっと年上で大人せいか日頃は絶対に漏らさない本音がでてしまったのだ。
ディランがごろりと動いてレノの方を向く。
「華奢なんて、成長期なんだからどうとでもなるわよ。アタシだって、あんたぐらいの時、華奢な絶世の美少年って、言われて逞しい殿方からもてもてだったわよ。今はこの通りの逞しい肉体美を手に入れてるけどね。それにねえ。見た目なんか目じゃないじゃない」
そう言いながら機敏な身のこなしで上身を起き上がらせたディランが、レノの額を長く太い指がそっと押す。
「アンタはここがいい。引くときは瞬間的に戦略をきちんと考えてあえて引いてるでしょ? 頭に血を登らせて無駄に打ち込みばかりする人もいるけど、自分の体力も分かってて、でも隙を見つけたらすぐに反撃に切りかえられる。ただ体力自慢で強いだけの奴は沢山いるかもしれない。でも頭を使って臨機応変に問題に対処できるやつはそういない」
ディランは気高い黒豹のように野性味あふれる顔にうっとりするような美しい微笑みを浮かべて言い放つ。
「自信を持ちなさい。アンタは誰かに都合良く扱われるような存在じゃない。そこにそうして、ありのままにいても大切な子なのよ」
その言葉は真っ直ぐに、レノの心にすとんと落ちてきた。
未だかつてただそこにいるレノをそのまま大切だと真正面からにいってくれた人がいただろうか。レノは知らず頬が赤く染まるのを感じた。
ディランはその変化を見逃さず、レノの年相応のあどけない顔をとても可愛く思った。
「ここにいる子たちはみんな、この街に一緒に生きてる、大切な仲間。さあ明日からも頑張りましょう! 今日はアタシの奢りでご飯食べ行くわよぉ」
ここに来て道場内に一番の雄叫びが上がった。
「ディランさん最高!っ」
レノは男たちの賑やかな歓声が上がり続けるなか、こっそりと滲んだ涙を拭って、起き上がる。すると笑顔で駆け寄ってきてくれたテツと肩を組んで喜びを分かち合った。
寸止めどころかわざと棍棒をコツンコツン当てられたところが痛むが、思い切り暴れ回ったおかげでレノは気分爽快だった。
二人そろって手足を投げ出し道場の床に寝転び、竹で編まれた天井板をみる。
開け放った窓からは雨上がりの少しだけ冷えた風が吹き、火照った身体を冷ましてくれる。
身体と共に昼間から興奮で鎮まることがなかった心もゆっくりと落ち着きを取り戻し、レノはふと、普段から思っていたことをぽつりとつぶやいた。
「俺は、本当に全然まだまだだな。こんな華奢な身体してるから、力押しに弱い。だから皆俺に言う事を聞かせて、都合よく扱おうとする」
自分よりも圧倒的に強い相手にあたったせいか、ディランがずっと年上で大人せいか日頃は絶対に漏らさない本音がでてしまったのだ。
ディランがごろりと動いてレノの方を向く。
「華奢なんて、成長期なんだからどうとでもなるわよ。アタシだって、あんたぐらいの時、華奢な絶世の美少年って、言われて逞しい殿方からもてもてだったわよ。今はこの通りの逞しい肉体美を手に入れてるけどね。それにねえ。見た目なんか目じゃないじゃない」
そう言いながら機敏な身のこなしで上身を起き上がらせたディランが、レノの額を長く太い指がそっと押す。
「アンタはここがいい。引くときは瞬間的に戦略をきちんと考えてあえて引いてるでしょ? 頭に血を登らせて無駄に打ち込みばかりする人もいるけど、自分の体力も分かってて、でも隙を見つけたらすぐに反撃に切りかえられる。ただ体力自慢で強いだけの奴は沢山いるかもしれない。でも頭を使って臨機応変に問題に対処できるやつはそういない」
ディランは気高い黒豹のように野性味あふれる顔にうっとりするような美しい微笑みを浮かべて言い放つ。
「自信を持ちなさい。アンタは誰かに都合良く扱われるような存在じゃない。そこにそうして、ありのままにいても大切な子なのよ」
その言葉は真っ直ぐに、レノの心にすとんと落ちてきた。
未だかつてただそこにいるレノをそのまま大切だと真正面からにいってくれた人がいただろうか。レノは知らず頬が赤く染まるのを感じた。
ディランはその変化を見逃さず、レノの年相応のあどけない顔をとても可愛く思った。
「ここにいる子たちはみんな、この街に一緒に生きてる、大切な仲間。さあ明日からも頑張りましょう! 今日はアタシの奢りでご飯食べ行くわよぉ」
ここに来て道場内に一番の雄叫びが上がった。
「ディランさん最高!っ」
レノは男たちの賑やかな歓声が上がり続けるなか、こっそりと滲んだ涙を拭って、起き上がる。すると笑顔で駆け寄ってきてくれたテツと肩を組んで喜びを分かち合った。
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