甘えんぼウサちゃんの一生のお願い

天埜鳩愛

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第二部 

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 練習後、寮に戻った深森は風呂上がりに共有ラウンジで牛乳を飲みつつ、熱心にスマホ画面を見つめていた。
 風呂の前にも連絡したが、恋人の卯乃からの返信がこないままだ。
 交際を始めた夏から卯乃の家に行かないときは、このくらいの時間からイヤフォンを付けて卯乃と通話しっぱなしのまま生活をしている。
 髪の雫を首にかけていたタオルで拭い、もう一度ロップイヤーバニーが人参を持つ愛らしいアイコンを開くと、そのまま通話ボタンをタップしようとして躊躇した。
 もどかしい気持ちのまま、前に座って同じくスマホを弄っていた友人に話しかけた。

「なあ、既読がつかないぐらいで家に押し掛けたら流石に……」

 筋骨隆々とした厳つい見た目のヒグマ獣人の癖に、友人はやたらとモテる。強引な人たらしだからこそ、卯乃以外には唯一深森との距離をぐっと縮めてこられた。だからこそ深森がチーム内で色恋の話までできる友人といったらこの男しかいないだろう。 

「やばい奴、だよな」
「あはははは。女子からクールでカッコいいって遠巻きにされてる、お前の台詞とは思えんな」

 真面目に話したつもりだったのだが、友人が大きな歯を見せて豪快に笑ったからすぐ後悔した。

「茶化すな」
「茶化してない。好きな子相手にはそんなになるだろ、男なら」
「そうか?」
「そうだ。お前も卯乃ちゃんも大真面目真剣交際中ってのは分かってる。ただちょっと、周りが見えんぐらいにお互いしか見えてないだけだろ。どれ、どんだけ送ってるんだ? 見せてみろ」

 自分でもどうかしていると思うほど、恋人に向け着信やメッセージを残していた自覚がある。友人は座る深森の手元を上からぬうっと覗き込んできた。深森は牛乳パックを机の上の置くと、画面を傾けて隠そうとしたがその前に腕をぎゅうっと掴まれた。
 流石ヒグマという力強さに押され、まんまとスマホを奪われてしまう。

「練習終わった 夕飯食べたか? 明日の試合場所の最寄り駅分かるか? 大丈夫か? 何かあった? 何か食べ物持っていこうか? 眠っている? 体調大丈夫か? からの発信履歴……。あー、こりゃお前。中々ずっしり重たいな。ああ。重たい」
「……卯乃、昼間会った時、いつもより少しだけ、調子が良くないように見えた」

 メッセージを読み上げられ、せせら笑われて返す言葉もない。スマホを取り返してまた画面を見たが、返信はまだ来なかった。

 昼間会った卯乃の様子が少しおかしかった気がした。気がしただけかもしれないが。
 いつも通り、元気で明るくて、応援に来てくれるのを楽しみにしていて。可愛くて、傍に居て欲しくて、抱きしめたくなって。卯乃といると一緒にいることが嬉しすぎて、その感覚にだけ囚われてしまって、ポンコツになる深森だ。

 
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