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番外編 内緒のバイトとやきもちと

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「あの、オーダーいいっすか?」

 ぷっくりとした唇をかみしめる卯乃の隣には常連の犬獣人の男子高校生が立っていた。彼らを改めて席に通すと、卯乃は気を取り直して客に向き直った。

「ようこそ「ラブリーロップ」へ。ご注文をお伺いします」
 近所の高校に通う彼らはたまにこの店に通ってくれる。髪がまだ少し濡れているのは彼らが水泳部であることを表している。店長の母校の後輩ということもあり、学割とサービスがきくからと普通のカフェのように通ってくれているようだ。
 気安げに声をかけると、彼らは面映ゆそうな表情をした後「ウサちゃんふわふわオムライス二つ」と注文してくれた。

(またウサオム~)

 内心あれを鏡越しとはいえ深森の近くでやるのは抵抗があったが仕方ない。

「今日も部活?」
「そうっす」

 人懐っこい柴獣人の少年がぐいっと額の汗をぬぐう。

「そっか。暑い中お疲れ様だね。ドリンク、店長の後輩特典で好きなの頼んでいいよ?」
「それ、すんげぇありがたいっす。今すっごい喉乾いて。お前もだよ、なあ?」

 いつも明るくて調子がよさそうな柴犬っぽい耳の色の少年が、身体は大きいが物静かな黒耳の犬獣人の少年を肘でつつく。彼も素直にこくりと頷いた。卯乃が微笑みかけたら、シャイなのかふいっと目を逸らされてしまった。

(俺も学生の頃はたまに友達とカフェに来たりしてたよなあ。こういう時どんな話してたっけ。他愛なお話するだけでもなんか盛り上がったりしてたよな)

 ついこないだまで自分も高校生だった卯乃だ。年が近いが年下ということもあり、学生にはどうしても甘くなってしまう。

(でも今度は、深森とカフェ巡りのデートしたいな、ふふふ)
「ゆっくりして、可愛いウサちゃんに癒されていくといいよ」

 卯乃が思わずこぼした笑みを見て、黒い耳の犬獣人の少年が見惚れたような表情で見上げてきた。そして卯乃に聞こえないぐらい小さな声で「可愛い」と呟いた。
 オムライスを運んできて、ちらっとガラスの向こうを見たら、こちらをじっと見つめる深森と目が合ってしまった。相変わらずミップちゃんを抱えて撫でまわしている。仏頂面の深森と違ってミップちゃんもまんざらではない表情で寛いでいるから、なんだか自分を見ているようで妙に恥ずかしくなってしまった卯乃だ。

(分かるよ。ミップ。オレも深森になでなでされるの、すごく好きだもん。深森ってああ見えてすごく優しくて触れてくれると胸がじわってあったかくなるぐらい、嬉しくなるんだ)

 オムライスのお決まりの「ぴょんぴょん」文句をいってから目鼻をかこうとしたら、珍しく失敗してなんと黒耳のラブラドールっぽい犬獣人の彼の制服のポロシャツにケチャップが少しかかってしまった。

「す、すみません」

 卯乃は真っ青になりながらわたわたと新しいおしぼりのビニールを破く。

「これ……。どうしよう。落ちないかも」
「大丈夫です。少ししかついてないし、洗えば落ちると思うから」
「でも……。申し訳ないです。クリーニングに出さないと。いまちょっと応急処置で、拭かせてください」
 
 卯乃が白い手におしぼりをもち、彼のシャツを懸命にぬぐっていたら、上からぎゅっと手を握られてしまった。

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