甘えんぼウサちゃんの一生のお願い

天埜鳩愛

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番外編 内緒のバイトとやきもちと

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(ええええ、どうして深森がここに??)
 
 深森には普通のカフェでバイトをしているといってあるし、場所まで告げた覚えはない。単純にこの姿が恥ずかしいからであって、他意はない。だけどどうしてだか深森がここまでたどりついてしまい、頭の中が真っ白になってしまった。 
 慌てる卯乃が一歩で遅れたのもあり、同僚の女性がアイドルの衣装ぐらいふわんふわんのスカートを振りながら深森の接客に回ってしまう。
 
「2名様ですか?」
「はい」
 
 深森の前に立つ熊獣人の事も見覚えがあった。深森のチームメイトで面識もある。彼はちらりと卯乃の方を見た後で、ウサちゃん触れ合いコーナーの方を指し示していった。

(外で見るとやっぱり、深森ってジャージ姿でもカッコいい)

 とにかく手足が長くて小顔、それでいてワイルドな雰囲気もあって男が見ても惚れる美貌だ。最近は自宅でしか姿見見ていなかった恋人に胸をときめかせながら恋人に熱い視線を送っていたら、ホールで立ち尽くす卯乃の姿を目にして深森の尻尾が一瞬しっぽをびびっとなった。だがそのまま熊獣人のチームメイトに促されるまま、一緒にふれあいゾーンにはいっていった。

(明らかに練習帰りだよなあ。オレのバイトが終わってから外でご飯一緒に食べる予定だったけど、待ち合わせは地元の駅のはずだったんだけど……)

 ガラスの向こう、ジャージ姿の深森は触れ合う相手のウサちゃんを写真の一覧を見せられている。
 呆然としている卯乃の耳に同僚の女性たちがひそひそと喋る声が聞こえてきてしまった。

「ねえ、今のお客様、二人ともすごくかっこよくなかった? プロの選手だったり」
「あっちのお兄さん大型種の猫? 目の色見た? 宝石みたいに綺麗だった」
「サッカー部かなあ? ねえ。あの大学って」

 持っていた鞄のロゴに目ざとく気が付いた愛くるしい白兎の女の子が卯乃の腕をとって引っ張ると、むぎゅっと胸元に押し付けながら耳元に囁いてきた。
 最初は初の男子アルバイトということで卯乃にも割としつこくしてきた女の子だった。だけどすぐにバイト先に来るお客さんをロックオンしていた。不実に見えるが兎獣人はわりと性に奔放な人が多い。この程度ならば兎同士ではわりと普通のスキンシップといえた。

「ねーえ。もしかして卯乃と同じ大学じゃない?」
 
 だが卯乃は割と箱入りに育ったこともあり、男女ともにこんな風に距離を詰められるのが苦手だ。困った顔で掴まれた腕を引き抜こうとしながら「そうだけど……」となんとか呟いた。

「やっぱり! じゃあ、あの人達どっちか、連絡先知ってる?」
 
 甘ったるい声、うるうるの瞳に気おされそうになりながらも正直者の卯乃は何と言っていいか分からず、きゅっと唇を噤む。

(嘘をつくのやだけど、教えたくない)

 それどころか今すぐ「深森はオレの彼氏なんだから、ちょっかいかけないで」と叫びだしたくなる。
 流石にバイト中にそんなことできないけど、イライラして思わず片足でたたんっと地団太を踏みそうになった。
 すると背後から今度は店長がやってきて、卯乃の胴に腕を回すとぐっと自分の方に引き寄せた。

「店長?」

 半ば抱きしめられる格好になりながら上目遣いに店長を見上げると、店内できゃあっと歓声が上がる。

「睦月店長とウサ男君、いっつも仲良しで癒される」

 友人の熊獣人のついのべはこれです。
⑩のお話
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