甘えんぼウサちゃんの一生のお願い

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
15 / 99
第一部

14 イチコロゴロゴロゴロにゃーん

しおりを挟む
 意味深な言葉と共に大きな掌が卯乃の垂れた耳ごと優しく頭を撫ぜていく。体格差のせいか男同士のくせにすごく優しく触ってくるから調子が狂ってしまう。

(こいつ、こんな優しくてなんで恋人作らないんだろ。こんなんされたら猫女子イチコロゴロゴロごろにゃーんだろ。こいつがグランドいたら周り女子だらけで人気すごいのに)

 じっと卯乃を包み込むように見つめてくる、優しい光を宿すまろやかな明るい緑の瞳を見つめ返せば、色々な感情が沸き起こった。ぐっと慕わしさがこみあげてくる。

(深森って、もしかしてオレの事、好きなのかな。好きじゃなきゃここまで来ないよな。……まあ、俺も深森のこと好きだけど、この好きって、どんな系統の好きなんだろ。好きにも種類ってあるのかな。うーん。やっぱニャニャモと似てる、一目見た時からすでに大好きって気持ちが強すぎて、それと重なって、よくわかんないや)
「暑いし蚊に刺されるから早く中入って」

 見上げるほどの偉丈夫が緩やかに首を振ると、背後で艶々とした毛並みで、赤銅色に黒い縞がくっきりとした立派な尾も同じように揺れた。
 それを見て卯乃はますます瞳を輝かせたが、深森は反対に複雑そうに眉を下げてから「お邪魔します」と背を丸めるようにして低い扉をくぐった。それでもすぐ手前の部屋の鴨居に額を打ち付けかけ、卯乃はあわわっと慌てた。

「うち、古い家だからあちこち低いんだ。頭ぶつけないでね」
「ん、わかった」
「もう寝るとこだった?」
「ああ。寝入りばなだった。今日も疲れた。卯乃に癒されに来たんだ」

 甘える口調だが、顔はいたって何事もなかったような顔をしている。それでも明日も合宿前の朝練が入っているだろうからゆっくり休みたかったはずなのだ。よく日に焼けた首筋に伝う汗の雫をみとめて申し訳ない気持ちになった。

「ごめんって。うちでゆっくり休んでって。あ。風呂も入った後だったよね?」
「ああ。いいさ。……チャリ漕いだから流石に汗だくだな」
「じゃ、風呂わいてるから、汗流してきなよ。冷房ガンガンに効かせているから、ゴロゴロして、涼んでくれよな」
「分かった。風呂の後でいいから、猫に線香あげに行っていいか?」
「ううっ……、ありがとうっ。お前やっぱいいやつすぎ」

 鋭角でない三角の柔らかそうな耳から伸びる長い毛、形も色もマスカットに似た瞳。目があったら、また堪えていた涙がぽろぽろと零れてきてしまった。思わず抱き着いたら、深森のふっさり長い尻尾が慰めるように卯乃の腰に回された。


 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件

深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。 ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが―― その内容がとても信じられないもので… bloveさんにも投稿しております。 完結しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ハリネズミ♡フシュフシュ〜半獣のハリネズミさんは、ニホンオオカミの半獣さんに愛される〜

れいす
BL
 半獣のハリネズミ・裕太(ゆうた)は亡くなった両親の借金の為、高級男妓楼で働いていた。辛い日々、命を絶とうとした裕太の前に現れた客は、なんと絶滅したはずのニホンオオカミの半獣だった。白銀(しろがね)と名乗る彼は、何やら他のお客とは違うようで・・・?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

観念しようね、レモンくん

天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです 🍋あらすじ🍋 バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。 美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。 共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突! 自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう 「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。 麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」 賭けに負けたら大変なことに!!! 奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。 「れーちゃん、観念しようね?」 『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...