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第一部

14 イチコロゴロゴロゴロにゃーん

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 意味深な言葉と共に大きな掌が卯乃の垂れた耳ごと優しく頭を撫ぜていく。体格差のせいか男同士のくせにすごく優しく触ってくるから調子が狂ってしまう。

(こいつ、こんな優しくてなんで恋人作らないんだろ。こんなんされたら猫女子イチコロゴロゴロごろにゃーんだろ。こいつがグランドいたら周り女子だらけで人気すごいのに)

 じっと卯乃を包み込むように見つめてくる、優しい光を宿すまろやかな明るい緑の瞳を見つめ返せば、色々な感情が沸き起こった。ぐっと慕わしさがこみあげてくる。

(深森って、もしかしてオレの事、好きなのかな。好きじゃなきゃここまで来ないよな。……まあ、俺も深森のこと好きだけど、この好きって、どんな系統の好きなんだろ。好きにも種類ってあるのかな。うーん。やっぱニャニャモと似てる、一目見た時からすでに大好きって気持ちが強すぎて、それと重なって、よくわかんないや)
「暑いし蚊に刺されるから早く中入って」

 見上げるほどの偉丈夫が緩やかに首を振ると、背後で艶々とした毛並みで、赤銅色に黒い縞がくっきりとした立派な尾も同じように揺れた。
 それを見て卯乃はますます瞳を輝かせたが、深森は反対に複雑そうに眉を下げてから「お邪魔します」と背を丸めるようにして低い扉をくぐった。それでもすぐ手前の部屋の鴨居に額を打ち付けかけ、卯乃はあわわっと慌てた。

「うち、古い家だからあちこち低いんだ。頭ぶつけないでね」
「ん、わかった」
「もう寝るとこだった?」
「ああ。寝入りばなだった。今日も疲れた。卯乃に癒されに来たんだ」

 甘える口調だが、顔はいたって何事もなかったような顔をしている。それでも明日も合宿前の朝練が入っているだろうからゆっくり休みたかったはずなのだ。よく日に焼けた首筋に伝う汗の雫をみとめて申し訳ない気持ちになった。

「ごめんって。うちでゆっくり休んでって。あ。風呂も入った後だったよね?」
「ああ。いいさ。……チャリ漕いだから流石に汗だくだな」
「じゃ、風呂わいてるから、汗流してきなよ。冷房ガンガンに効かせているから、ゴロゴロして、涼んでくれよな」
「分かった。風呂の後でいいから、猫に線香あげに行っていいか?」
「ううっ……、ありがとうっ。お前やっぱいいやつすぎ」

 鋭角でない三角の柔らかそうな耳から伸びる長い毛、形も色もマスカットに似た瞳。目があったら、また堪えていた涙がぽろぽろと零れてきてしまった。思わず抱き着いたら、深森のふっさり長い尻尾が慰めるように卯乃の腰に回された。


 
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