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第一部

4 ウサちゃんの憂鬱

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 兎獣人は男女ともに童顔で愛くるしい顔立ちのものが多い。総じて華奢だが尻や太ももなどがむっちりしていて、肉感的でセクシャルな魅力を放つ。その色香で他の獣人を翻弄している者も少なくない。また種族の特徴として安易に発情しやすく情欲の火が付きやすいのだ。それらが災いして兎獣人を手に入れ自分の思い通りにしたいという類の執着や、性的な興味を持たれやすいのだ。
 卯乃は身持ちが固いが、ぱっちりした目元を少し細めただけで、何時でも優しく微笑んでいる様に見えるため、他者から自分に好意があるのだと誤解されやすかった。
 人懐っこい性格でバイト先では先輩に可愛がられ、学校では同級生や先生から好印象を抱かれてきた。だがそれが今回ばかりは完全に仇となっていた。
 友人たちはそのままサークルに入ったので、彼らと仲良くしようとすると、やたらその犬獣人先輩が割って入ってくる。周囲からはイケメン認定されているようだが、卯乃と喋りながら、時折舌なめずりする口元も、ねちっこい眼差しも、やたらと二人っきりで会おうと誘ってくるところも嫌で嫌で堪らなかった。 
 卯乃は『バイトが忙しい』と理由をつけては彼の様々な誘いを断り続けた。しかし悲しいかな、もともと嘘偽りが苦手な性格で、ひねり出した理由のせいで本当にバイトのシフトを増やし、忙しくて折角出来た友人たちとも疎遠になってしまった。

(ああ、寂しい。講義とバイトの予定ばっかり……。家に帰っても家族はいないし。ああ、みんなに会いたいよお。せめて、ニャニャモがいてくれたらよかったのに。もう、会えないけど。もう一度、ニャニャモに会いたい)

 思い出されるのは転勤で他県に行ってしまった家族と、亡くなった愛猫の事ばかりだ。卯乃は実家から通える地域で進学をしたので、祖父母が残してくれた古い一軒家でこの春から一人暮らしを始めていた。
 当初は一人といっても、幼い頃から一緒にいたダンディーなおじいちゃん猫、ニャニャモもいるから寂しくないと思っていたのだ。そのニャニャモも卯乃の合格発表を見届けたかのように亡くなってしまい、卯乃は一人ぼっちの春を迎えた。
 愛猫は最期の時、差し出した卯乃の指先を頑張れよ、というようにぺろっと舐めてくれた。ぐったりと寝床に横たわり、綺麗な緑色の瞳は瞼に隠されていたが、卯乃のことを最後まで想ってくれていたような穏やかな仕草だった。思い出すたびに涙がこぼれる。ニャニャモが今、傍にいてくれたらどれだけ慰められたかわからないが、こればっかりは仕方がないことだ。
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