3 / 99
第一部
2 久々の再会
しおりを挟む
卯乃はビロードのように滑らかなオレンジ色の耳を揺らし、またぴょんこっと深森に飛びついた。すりりっと厚い胸に頬ずりすれば、急いで自転車を漕いできてくれたせいか、深森の心音もドッドッと早くなっている。彼の尻尾が背後で嬉し気にぴーんと伸びて、背中に回した卯乃の手の甲にふわふわが触れた。
「くふっ」
それで卯乃も嬉しくなった。彼は微笑み混じりの吐息を漏らす。
「……分かっちゃいたんだが、俺ら、夏休みにはいってから全然会えなかったな。お前が呼んでくれたお陰で、やっと顔が見れた」
そう言って浮かべた笑顔が爽やかで、男同士とはいえ胸がキュンとしてしまう。
「ふわあ」
(いつもみんなから何考えてんだかわかんないって言われてる深森が、今日はめちゃめちゃ素直だ)
久々に二人きりになったせいか、甘い雰囲気にまたまた胸がドキドキしてしまう。
卯乃は恥ずかしそうにくしゅ、くしゅっと手の甲で顔を擦ってから上目遣いに目線を合わせると、瑞々しく美しいマスカットグリーンの瞳が蕩ける様に優しく卯乃を見つめ返した。形も色もその輝きも大好きなのに、卯乃はなんだか照れてすぐ目を逸らしてしまう。
日頃構内で隣同士でいる時も、深森はごくたまにこんな風に甘い目線を送ってくる。誰にも懐かない孤高の猫が自分だけは特別に思ってくれているようで、そのたび卯乃はなんだかどぎまぎしてしまう。
外の熱気はまだまだすごい。卯乃は照れ隠しのようにいそいそと、握っていた冷たいペットボトルを差しだした。
「まあ、これでも飲んで!」
「ああ」
深森は雄々しく褐色の喉を動かし、ごくごくと一気にそれをあおって口元をぐいっと拭う。サッカーの練習中、ピッチ横ではそんな仕草一つにすら女の子たちがわーきゃーいっていたのを思い出す。
(何気ない仕草に目が行くって、ほんとのイケメンだな)
隣に並ぶといつも上目遣いになってしまうほどの長身。筋肉で覆われた頼りがいがある体躯を見たら彼女たちが色めき立つ気持ちもわかってしまう。
深森は大学の強豪サッカー部に所属する非常に忙しい身の上だ。猫獣人にしては大型種の恵まれた体格で、強豪サッカー部の一年生ながらキーパーを任された逸材。期待の新人だ。
(寂しいから会いたいなんて、ただの友達のくせして彼女も真っ青なとんでもないワガママ言ったのに、くっそ忙しい深森がチャリ飛ばしてきてくれたなんて……)
遠征間近の忙しいこの時期、明日も朝から練習があるはず。それを思うと申し訳なくて涙が出そうになる。
「なんか、色々ごめん」
「くふっ」
それで卯乃も嬉しくなった。彼は微笑み混じりの吐息を漏らす。
「……分かっちゃいたんだが、俺ら、夏休みにはいってから全然会えなかったな。お前が呼んでくれたお陰で、やっと顔が見れた」
そう言って浮かべた笑顔が爽やかで、男同士とはいえ胸がキュンとしてしまう。
「ふわあ」
(いつもみんなから何考えてんだかわかんないって言われてる深森が、今日はめちゃめちゃ素直だ)
久々に二人きりになったせいか、甘い雰囲気にまたまた胸がドキドキしてしまう。
卯乃は恥ずかしそうにくしゅ、くしゅっと手の甲で顔を擦ってから上目遣いに目線を合わせると、瑞々しく美しいマスカットグリーンの瞳が蕩ける様に優しく卯乃を見つめ返した。形も色もその輝きも大好きなのに、卯乃はなんだか照れてすぐ目を逸らしてしまう。
日頃構内で隣同士でいる時も、深森はごくたまにこんな風に甘い目線を送ってくる。誰にも懐かない孤高の猫が自分だけは特別に思ってくれているようで、そのたび卯乃はなんだかどぎまぎしてしまう。
外の熱気はまだまだすごい。卯乃は照れ隠しのようにいそいそと、握っていた冷たいペットボトルを差しだした。
「まあ、これでも飲んで!」
「ああ」
深森は雄々しく褐色の喉を動かし、ごくごくと一気にそれをあおって口元をぐいっと拭う。サッカーの練習中、ピッチ横ではそんな仕草一つにすら女の子たちがわーきゃーいっていたのを思い出す。
(何気ない仕草に目が行くって、ほんとのイケメンだな)
隣に並ぶといつも上目遣いになってしまうほどの長身。筋肉で覆われた頼りがいがある体躯を見たら彼女たちが色めき立つ気持ちもわかってしまう。
深森は大学の強豪サッカー部に所属する非常に忙しい身の上だ。猫獣人にしては大型種の恵まれた体格で、強豪サッカー部の一年生ながらキーパーを任された逸材。期待の新人だ。
(寂しいから会いたいなんて、ただの友達のくせして彼女も真っ青なとんでもないワガママ言ったのに、くっそ忙しい深森がチャリ飛ばしてきてくれたなんて……)
遠征間近の忙しいこの時期、明日も朝から練習があるはず。それを思うと申し訳なくて涙が出そうになる。
「なんか、色々ごめん」
67
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
鹿水の子
かろ丸
BL
時代は変わり山の信仰は薄れた。信仰をなくし消える神、山を切り開かれ体をなくし消える神、あまたの髪が消えていく中、山神に使える鹿水(かみ)の子である水月はこのままでは大好きな山神様が消えてしまうと山神様の信仰を取り戻そう!計画を始めた。村人とも仲を深め少しずつ山神への信仰心を取り戻していった水月だったが、村人たちの様子は次第に変わっていき……

【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件
深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。
ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが――
その内容がとても信じられないもので…
bloveさんにも投稿しております。
完結しました。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる