仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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夏祭りの思い出

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 柚希が真夏の発情期に入って凡そ一週間。
 幼い息子たちにはまだ発情期の存在をはっきりとは伝えられていないため、発情期になるたび二人は急な御用事で旅行に行っていることになっているのだ。ともに仕事を休んでくれていた和哉と共に自宅から息子たちを実家に迎えに行った時、昼間に沢山雨が降ったからか少しだけ連日の熱波が落ち着いて秋の気配を探せる風が吹いてきていた。

 普段ならば発情期に入る前に息子らを両親に預ける算段や保育園でお迎えに行く人の変更の連絡をしたりするのだが、今回はいきなりのことで柚希の相手や世話をしながら和哉が全て整えていった。

「今回も色々と、ありがとうね。急な発情で、その……。準備も何もなくて。母さんたちにも和哉にも迷惑かけちゃった」
「いいのよ。私も今、仕事していないし、敦哉さんもお盆休みたっぷりとってくれたし。みっちゃんはたまにぐずって泣いてたけど、咲ちゃんはいい子だったわよ」
「ありがとうございます。カズも、本当にありがとうね」
「柚希はいつも頑張りすぎなんだから。こういう時こそ番に頼ってくれればいいんだよ」

 柚希は発情期のたび周りに迷惑をかけることを、しきりにすまながっていたが、和哉としては年に数度、柚希を自分の腕の届く範囲に囲い込み愛しぬける発情期が楽しみになっている。誰に遠慮することもなく柚希と二人きりの蜜月を過ごせることが、αとΩに生まれた特権のように感じ、色々あったがやはりこの性に生まれ柚希を得ることができた喜びを再確認できる。

 だが発情期が終わった後、日常に戻る時。毎度柚希を自分から引きはがされるようなひりひりとした痛みを胸に感じているのはいい大人として流石に誰にも言えないでいる。

 夕食を皆で囲んだのち、実家のリビングから見渡せる小さな庭に出て、家族で花火をすることになった。

「ママたち祭りの日、花火見られなかったかもしれないからって、咲ちゃんとみっちゃんが二人が帰ってくる日にやろうって楽しみにしてたのよね」
「ボク花火1人でもつの!」
「だーめ。蜜希はまだ小さいから危ないでしょ?」
「大丈夫だからあ」
「でも一緒にもとうね?」

 祭りの時はあれほどつんつんしていた蜜希も、やはり久しぶりに会えた両親に、特に柚希にべったりで腰の辺りにべたべたとくっついたり抱っこを強請ったりと忙しい。それは発情期という蜜月の間、柚希を独占していた和哉も同じく。番と離れがたい気持ちでいるため蜜希と共に花火に興じる柚希の後ろにぴったりと立って二人を見守っている。そんな中、大人しい咲哉は何となく一歩引いて二人を見つめている。
 だが咲哉も柚希に話したい沢山あるのだろう、何か言いたげな顔をして発情期後はよりしっとりと匂い立つ色香を湛えた柚希を敬うような眼差しで、うっとり眺めている。

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