仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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夏祭りの思い出

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🐺和哉視点です。子どもの頃から筋金入りの執着攻め、和哉は年を追うごとに、どんどんしつこくなっていくタイプだと思います。
 それともしも和哉たちの他のお話しとか、蜜希とか咲哉が大きくなってからのエピソードとかご覧になりたいなどございましたらお声頂けたら嬉しいです。励みになります💕
 
 柚希自体は気がついていないようだったが番の和哉には分かる。祭りの会場にいるあたりからもしかしたらと思っていたが、柚希の醸すフェロモンの濃度が和哉を誘うように高まり、発情期にさしかかっているのだと。前回の発情期から二か月あまり。普段なら三か月過ぎる頃にやってくるのだがこの頃の忙しさで身体の調子が悪いのか、不順になっているようだ。
 番になって、二人の子の親になってから、柚希はかつて少年時代の和哉にしてくれたように細やかな愛情を我が子に注いでいる益々素敵な大人になった。だが番になった当初のように素直に自分の気持ちを表現しなくなり、和哉に甘えてくることも少なくなったのが寂しい。

 だからさっき和哉が手を繋いだらシャボンのように爽やかな香りがふわりと濃くなり、時折甘えるような仕草や目線が久しぶりで、本当に愛おしくてたまらなくなった。
 幼い頃からずっと、柚希から愛され心身ともに彼を支えてあげられる大人になりたいと思っていた。
 願いが叶い愛する人と並んで歩いても誰も何の文句も言わなくなったし、むしろ似合いの二人だと褒められることも多くそれが誇らしかった。
 柚希自身、色々な問題が起ると敦哉や桃乃より、パートナーとして和哉を頼り相談をしてくれるようになった。しかし和哉の中ではたまに猛烈に、番に自分だけを見つめて欲しい、沢山自分を求めて欲しいという、誰にも言えない仄暗い欲求が首をもたげることがあるのだ。

(昔の自分ならば何を贅沢なって思うだろうな。兄さんと番になれただけで、どれだけ果報者なんだって)
 
 なのにどうして、全てを手に入れたと思った番を困らせるほどに求めつくし、喰らいつくしたいと思う欲を抱えたままなのか。

(自分でも分からなくなる。柚希のことが愛おしすぎて、何を置いても僕を優先して欲しいなんて我欲を通した衝動に駆られてしまうなんて)

「ここじゃ、やだ!」

 しかし今、赤く艶っぽく色づいた唇をわなわなと震わせた、柚希の濃艶を極めた美しい顔は、強い意志をもってαである番を従わせようとしてくる。
 こんな時、和哉はαがΩを支配しているのではなく、己が柚希の愛の下僕であることを思い知るのだ。
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