277 / 296
夏祭りの思い出
26
しおりを挟む
一ノ瀬家には息子が二人。
4つのやんちゃ盛り弟の蜜希は2歳年上のしっかり者の兄、咲哉と手をつないでいたはずだったが、柚希に二回強請ってお目当てが引けなかったくじ引きをさらに自分に甘い祖父母に強請ろうと思ったのだろう。敦哉と桃乃が近くに来ていると分かると、兄の手を振り切って盆踊り会場を横切るように駆け出してしまった。
『柚希、どうしたの?』
スマホの通話は続いていたので桃乃の訝し気な声がしてきたから柚希は耳に当てなおして口早に事情を話した。
「母さんごめん、蜜希のやつ、多分そっち方面に走ってった」
『ええ! みっちゃんから目を離しちゃ駄目じゃない!』
「くじ引きやりたいって駄々こねてたから、先に母さんたちに会って強請る魂胆なんだと思う。あいつそういうとこ、本当にちゃっかりしてるから。誰に似たんだか……」
「柚パパ、待ってて! 僕がみっちゃん探してくるから!」
「待って! 咲哉はここにいなさい!」
兄弟揃いの浅黄色の甚平を着た咲哉は涼し気な笑顔で柚希に手を振ると、弟に負けぬ猛ダッシュで駆け出す。
日頃は親の言うことも良く聞く優等生の兄までもが柚希の制止を振り切って弟を捕まえに行ってしまい、幼い兄弟は瞬く間に人ごみに見えなくなってしまったのだ。
狼狽えた柚希は近くに来ているはずの父母と、そしてこちらに向かっているはずの和哉に自分も小走りに子供らが消えた方向を追いながら電話をかけた。程なく和哉が通話と始めながら、柚希は慌てふためききょろきょろと周りを見渡し受話器の向こうの和哉に向かっておもむろにまくし立てた。
「ごめん、和哉。二人ともどっか行った」
『え? どういうこと?」
「子どもたち二人とも見失った。ごめん、本当にごめん」
『柚希、落ち着いてって。また蜜希が迷子になったんだろ。迷子タグつけてないの?』
「今日、甚平着せたから、いつものワンちゃんバッグ持ってこなかったんだよ。あれにつけっぱなしにしてたから」
『そっか。行きそうなとこは? 僕もう神社の鳥居くぐってすぐの辺りにいるよ』
「そっちじゃなくてもう盆踊りの会場の、露天のある方に来てる。あれ、あれ。去年蜜希が固執してた玩具が当たるくじ引きあるだろ? アレ二回もやったのにまたやりたいってしつこくて。咲哉が僕の分もやらせてあげて?とか言うからまた蜜希、調子にのっちゃってさ。ああ、もう今はそんな事あれだ、とにかく早く探さないと」
『うちの子たちは信じられないぐらいに可愛すぎるから誘拐でもされたら大変だからね』
和哉のそんな台詞は全く冗談ではなくて、大真面目に言っているのだから、この非常時なのに柚希は少し笑ってしまった。
4つのやんちゃ盛り弟の蜜希は2歳年上のしっかり者の兄、咲哉と手をつないでいたはずだったが、柚希に二回強請ってお目当てが引けなかったくじ引きをさらに自分に甘い祖父母に強請ろうと思ったのだろう。敦哉と桃乃が近くに来ていると分かると、兄の手を振り切って盆踊り会場を横切るように駆け出してしまった。
『柚希、どうしたの?』
スマホの通話は続いていたので桃乃の訝し気な声がしてきたから柚希は耳に当てなおして口早に事情を話した。
「母さんごめん、蜜希のやつ、多分そっち方面に走ってった」
『ええ! みっちゃんから目を離しちゃ駄目じゃない!』
「くじ引きやりたいって駄々こねてたから、先に母さんたちに会って強請る魂胆なんだと思う。あいつそういうとこ、本当にちゃっかりしてるから。誰に似たんだか……」
「柚パパ、待ってて! 僕がみっちゃん探してくるから!」
「待って! 咲哉はここにいなさい!」
兄弟揃いの浅黄色の甚平を着た咲哉は涼し気な笑顔で柚希に手を振ると、弟に負けぬ猛ダッシュで駆け出す。
日頃は親の言うことも良く聞く優等生の兄までもが柚希の制止を振り切って弟を捕まえに行ってしまい、幼い兄弟は瞬く間に人ごみに見えなくなってしまったのだ。
狼狽えた柚希は近くに来ているはずの父母と、そしてこちらに向かっているはずの和哉に自分も小走りに子供らが消えた方向を追いながら電話をかけた。程なく和哉が通話と始めながら、柚希は慌てふためききょろきょろと周りを見渡し受話器の向こうの和哉に向かっておもむろにまくし立てた。
「ごめん、和哉。二人ともどっか行った」
『え? どういうこと?」
「子どもたち二人とも見失った。ごめん、本当にごめん」
『柚希、落ち着いてって。また蜜希が迷子になったんだろ。迷子タグつけてないの?』
「今日、甚平着せたから、いつものワンちゃんバッグ持ってこなかったんだよ。あれにつけっぱなしにしてたから」
『そっか。行きそうなとこは? 僕もう神社の鳥居くぐってすぐの辺りにいるよ』
「そっちじゃなくてもう盆踊りの会場の、露天のある方に来てる。あれ、あれ。去年蜜希が固執してた玩具が当たるくじ引きあるだろ? アレ二回もやったのにまたやりたいってしつこくて。咲哉が僕の分もやらせてあげて?とか言うからまた蜜希、調子にのっちゃってさ。ああ、もう今はそんな事あれだ、とにかく早く探さないと」
『うちの子たちは信じられないぐらいに可愛すぎるから誘拐でもされたら大変だからね』
和哉のそんな台詞は全く冗談ではなくて、大真面目に言っているのだから、この非常時なのに柚希は少し笑ってしまった。
0
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
事故つがいの夫は僕を愛さない ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】
カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました!
美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活
(登場人物)
高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。
高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。
(あらすじ)*自己設定ありオメガバース
「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」
ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。
天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。
理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。
天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。
しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。
ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。
表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217
さよならの向こう側
よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
グッバイ運命
星羽なま
BL
表紙イラストは【ぬか。】様に制作いただきました。
《あらすじ》
〜決意の弱さは幸か不幸か〜
社会人七年目の渚琉志(なぎさりゅうじ)には、同い年の相沢悠透(あいざわゆうと)という恋人がいる。
二人は大学で琉志が発情してしまったことをきっかけに距離を深めて行った。琉志はその出会いに"運命の人"だと感じ、二人が恋に落ちるには時間など必要なかった。
付き合って八年経つ二人は、お互いに不安なことも増えて行った。それは、お互いがオメガだったからである。
苦労することを分かっていて付き合ったはずなのに、社会に出ると現実を知っていく日々だった。
歳を重ねるにつれ、将来への心配ばかりが募る。二人はやがて、すれ違いばかりになり、関係は悪い方向へ向かっていった。
そんな中、琉志の"運命の番"が現れる。二人にとっては最悪の事態。それでも愛する気持ちは同じかと思ったが…
"運命の人"と"運命の番"。
お互いが幸せになるために、二人が選択した運命は──
《登場人物》
◯渚琉志(なぎさりゅうじ)…社会人七年目の28歳。10月16日生まれ。身長176cm。
自分がオメガであることで、他人に迷惑をかけないように生きてきた。
◯相沢悠透(あいざわゆうと)…同じく社会人七年目の28歳。10月29日生まれ。身長178cm。
アルファだと偽って生きてきた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる