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夏祭りの思い出
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一ノ瀬家には息子が二人。
4つのやんちゃ盛り弟の蜜希は2歳年上のしっかり者の兄、咲哉と手をつないでいたはずだったが、柚希に二回強請ってお目当てが引けなかったくじ引きをさらに自分に甘い祖父母に強請ろうと思ったのだろう。敦哉と桃乃が近くに来ていると分かると、兄の手を振り切って盆踊り会場を横切るように駆け出してしまった。
『柚希、どうしたの?』
スマホの通話は続いていたので桃乃の訝し気な声がしてきたから柚希は耳に当てなおして口早に事情を話した。
「母さんごめん、蜜希のやつ、多分そっち方面に走ってった」
『ええ! みっちゃんから目を離しちゃ駄目じゃない!』
「くじ引きやりたいって駄々こねてたから、先に母さんたちに会って強請る魂胆なんだと思う。あいつそういうとこ、本当にちゃっかりしてるから。誰に似たんだか……」
「柚パパ、待ってて! 僕がみっちゃん探してくるから!」
「待って! 咲哉はここにいなさい!」
兄弟揃いの浅黄色の甚平を着た咲哉は涼し気な笑顔で柚希に手を振ると、弟に負けぬ猛ダッシュで駆け出す。
日頃は親の言うことも良く聞く優等生の兄までもが柚希の制止を振り切って弟を捕まえに行ってしまい、幼い兄弟は瞬く間に人ごみに見えなくなってしまったのだ。
狼狽えた柚希は近くに来ているはずの父母と、そしてこちらに向かっているはずの和哉に自分も小走りに子供らが消えた方向を追いながら電話をかけた。程なく和哉が通話と始めながら、柚希は慌てふためききょろきょろと周りを見渡し受話器の向こうの和哉に向かっておもむろにまくし立てた。
「ごめん、和哉。二人ともどっか行った」
『え? どういうこと?」
「子どもたち二人とも見失った。ごめん、本当にごめん」
『柚希、落ち着いてって。また蜜希が迷子になったんだろ。迷子タグつけてないの?』
「今日、甚平着せたから、いつものワンちゃんバッグ持ってこなかったんだよ。あれにつけっぱなしにしてたから」
『そっか。行きそうなとこは? 僕もう神社の鳥居くぐってすぐの辺りにいるよ』
「そっちじゃなくてもう盆踊りの会場の、露天のある方に来てる。あれ、あれ。去年蜜希が固執してた玩具が当たるくじ引きあるだろ? アレ二回もやったのにまたやりたいってしつこくて。咲哉が僕の分もやらせてあげて?とか言うからまた蜜希、調子にのっちゃってさ。ああ、もう今はそんな事あれだ、とにかく早く探さないと」
『うちの子たちは信じられないぐらいに可愛すぎるから誘拐でもされたら大変だからね』
和哉のそんな台詞は全く冗談ではなくて、大真面目に言っているのだから、この非常時なのに柚希は少し笑ってしまった。
4つのやんちゃ盛り弟の蜜希は2歳年上のしっかり者の兄、咲哉と手をつないでいたはずだったが、柚希に二回強請ってお目当てが引けなかったくじ引きをさらに自分に甘い祖父母に強請ろうと思ったのだろう。敦哉と桃乃が近くに来ていると分かると、兄の手を振り切って盆踊り会場を横切るように駆け出してしまった。
『柚希、どうしたの?』
スマホの通話は続いていたので桃乃の訝し気な声がしてきたから柚希は耳に当てなおして口早に事情を話した。
「母さんごめん、蜜希のやつ、多分そっち方面に走ってった」
『ええ! みっちゃんから目を離しちゃ駄目じゃない!』
「くじ引きやりたいって駄々こねてたから、先に母さんたちに会って強請る魂胆なんだと思う。あいつそういうとこ、本当にちゃっかりしてるから。誰に似たんだか……」
「柚パパ、待ってて! 僕がみっちゃん探してくるから!」
「待って! 咲哉はここにいなさい!」
兄弟揃いの浅黄色の甚平を着た咲哉は涼し気な笑顔で柚希に手を振ると、弟に負けぬ猛ダッシュで駆け出す。
日頃は親の言うことも良く聞く優等生の兄までもが柚希の制止を振り切って弟を捕まえに行ってしまい、幼い兄弟は瞬く間に人ごみに見えなくなってしまったのだ。
狼狽えた柚希は近くに来ているはずの父母と、そしてこちらに向かっているはずの和哉に自分も小走りに子供らが消えた方向を追いながら電話をかけた。程なく和哉が通話と始めながら、柚希は慌てふためききょろきょろと周りを見渡し受話器の向こうの和哉に向かっておもむろにまくし立てた。
「ごめん、和哉。二人ともどっか行った」
『え? どういうこと?」
「子どもたち二人とも見失った。ごめん、本当にごめん」
『柚希、落ち着いてって。また蜜希が迷子になったんだろ。迷子タグつけてないの?』
「今日、甚平着せたから、いつものワンちゃんバッグ持ってこなかったんだよ。あれにつけっぱなしにしてたから」
『そっか。行きそうなとこは? 僕もう神社の鳥居くぐってすぐの辺りにいるよ』
「そっちじゃなくてもう盆踊りの会場の、露天のある方に来てる。あれ、あれ。去年蜜希が固執してた玩具が当たるくじ引きあるだろ? アレ二回もやったのにまたやりたいってしつこくて。咲哉が僕の分もやらせてあげて?とか言うからまた蜜希、調子にのっちゃってさ。ああ、もう今はそんな事あれだ、とにかく早く探さないと」
『うちの子たちは信じられないぐらいに可愛すぎるから誘拐でもされたら大変だからね』
和哉のそんな台詞は全く冗談ではなくて、大真面目に言っているのだから、この非常時なのに柚希は少し笑ってしまった。
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