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夏祭りの思い出

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「ごめんって……。僕に謝ることじゃないよ。兄さん、いつもあんな目にあったりしてるの?」
「……そんなことない」
「兄さんさあ。無防備すぎなんだよ。……こんなこと言いたくないけど、兄さんはΩなんだよ」
「うん、わかってる」
「わかってない。番がいないΩが男にとってどんな風に見えるのか? 兄さんだってβだった頃あったんだから分かるよね?」
「うん……」

 世間一般的なイメージ通りにΩを見ていなかったわけじゃない。番を失った後も発情期に悩まされる母の桃乃の苦労を知らないわけでもない。
 柚希はただ……。

(こんな時思い知る。俺はまだ、自分がΩだってことを、自分の中で解消できないでいるんだ。)

「くそっ……、この香り、あんな奴らにも嗅がせたなんて。腹が立つ!」

 和哉が小さくそうはき捨てたが、車のクラクションが鳴ったタイミングでかき消され、柚希の耳には届かなかった。
 懸命に兄を負ぶって歩く弟の背に縋りながら、柚希はすごく安らぎ少しうつらうつらとしながら素直に気持ちを打ち明ける。

「和哉……。来てくれて、ありがとうな。やっぱ、祭りは誰かと一緒じゃなきゃ、寂しいもんだな」 

 酔いが手伝ってうっかり弱音を吐いてしまった。
「一人にしてごめん。寂しい思い、させてごめん」

 柚希が一人離れて暮らすきっかけは自分にもあると和哉は思っているのだろう。弟に心配ばかりかけて、柚希はまた自分がΩになってしまった事を恨めしく思った。だがいつでも懸命に自分を支えようとしてくれる弟の努力にも報いたいとも思う。

「和哉がこうして俺を気遣ってくれるの、嬉しいよ。ありがとう。和哉の笑顔を思い出したら、俺、色々頑張れるって思うから」
 
 真っすぐ前を向いてひたすらに歩いていた和哉だったが、その言葉に胸が詰まって、もうすぐ角を曲がれば我が家への家路を急ぐ歩調を名残惜し気に緩める。

「さっきさ、『俺の和哉』って言われたの。ちょっとぐっときちゃったな」

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