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夏祭りの思い出
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「兄さん! 大丈夫? 凄い怪我してる」
慌て焦った和哉の声が頭上から喧々と降り注ぐから、まだ高校生の和哉に怖い思いをさせたことが申し訳なくて、柚希は弟を懸命に見上げて彼を落ち着かせようとなんとか口元に笑みを浮かべた。
「大したことない。慣れないこと色々したから、腰が抜けた。お前を護ってやりたかったのに。情けねえ」
「情けなくなんてない。僕こそ……。兄さんを護りたかったのに。一人にしてごめんね」
成長した弟の大きな掌が、柚希の頭を労わるように優しく撫ぜるから、柚希は不覚にも涙が滲みそうになってしまった。
和哉は柚希の前に背を向けてしゃがみこむと、柚希を振り返って促した。
「背中に乗って? 家に帰ろう」
「え? いいよ。無理無理。男なんだから、一人で歩ける」
「いいから乗ってよ。荷物も持ってないし、兄さん負ぶうくらい、何でもない。そんな怪我した兄さんを歩かせたら、俺が母さんに顔向けできない」
そのままコンビニの入り口で兄弟は押し問答を繰り返していたが、祭り帰りと思しき若者がひっきりなしに出入りして二人をじろじろと見ていくから和哉が振り向き様、眉を吊り上げわざと怒ったような顔をしてみせた。
「もう! 知り合いが通りがかったら何かと思われるよ。早くして」
(成人した兄貴背負って歩いてる方が何かと思われるよなあ)
そう言い返そうものなら、和哉がまた口をきいてくれないコースまっしぐらだとぐっと我慢する。それに弟に叱られたのが効いたというより、本当にもう安堵から腰が抜けてしまっていて、柚希は素直に和哉の命令に従うしかなかった。
「絶対、負ぶって歩けないって」
「うるさい。僕だって、兄さんぐらい余裕で負ぶえる」
半信半疑で背後からまだ高校生の弟の首に腕を回すと、和哉は本当にひょいっと、柚希を負ぶって立ち上がり、軽々と歩き出した。すっかり逞しくなった弟の背の上で、柚希は流石に恥ずかしくていつの間にか敦哉のように広く大きくなった背中に顔を押し付けて赤面した顔を世間から隠す。
「変なことにお前を巻き込んで、ごめん」
「ああいう時はさ、すぐスマホで僕を呼んでよね? あのまま連れていかれちゃったらどうするつもりだったの?」
「……俺男だし、向こうも酔ってたから酔いが醒めたらどうとでもなるとおもったんだよ」
はあ、っと和哉が大仰なため息をついたから背中でそれを聞いていた柚希でも和哉の苛立ちをすぐに感じて即、謝った。
「ごめん」
慌て焦った和哉の声が頭上から喧々と降り注ぐから、まだ高校生の和哉に怖い思いをさせたことが申し訳なくて、柚希は弟を懸命に見上げて彼を落ち着かせようとなんとか口元に笑みを浮かべた。
「大したことない。慣れないこと色々したから、腰が抜けた。お前を護ってやりたかったのに。情けねえ」
「情けなくなんてない。僕こそ……。兄さんを護りたかったのに。一人にしてごめんね」
成長した弟の大きな掌が、柚希の頭を労わるように優しく撫ぜるから、柚希は不覚にも涙が滲みそうになってしまった。
和哉は柚希の前に背を向けてしゃがみこむと、柚希を振り返って促した。
「背中に乗って? 家に帰ろう」
「え? いいよ。無理無理。男なんだから、一人で歩ける」
「いいから乗ってよ。荷物も持ってないし、兄さん負ぶうくらい、何でもない。そんな怪我した兄さんを歩かせたら、俺が母さんに顔向けできない」
そのままコンビニの入り口で兄弟は押し問答を繰り返していたが、祭り帰りと思しき若者がひっきりなしに出入りして二人をじろじろと見ていくから和哉が振り向き様、眉を吊り上げわざと怒ったような顔をしてみせた。
「もう! 知り合いが通りがかったら何かと思われるよ。早くして」
(成人した兄貴背負って歩いてる方が何かと思われるよなあ)
そう言い返そうものなら、和哉がまた口をきいてくれないコースまっしぐらだとぐっと我慢する。それに弟に叱られたのが効いたというより、本当にもう安堵から腰が抜けてしまっていて、柚希は素直に和哉の命令に従うしかなかった。
「絶対、負ぶって歩けないって」
「うるさい。僕だって、兄さんぐらい余裕で負ぶえる」
半信半疑で背後からまだ高校生の弟の首に腕を回すと、和哉は本当にひょいっと、柚希を負ぶって立ち上がり、軽々と歩き出した。すっかり逞しくなった弟の背の上で、柚希は流石に恥ずかしくていつの間にか敦哉のように広く大きくなった背中に顔を押し付けて赤面した顔を世間から隠す。
「変なことにお前を巻き込んで、ごめん」
「ああいう時はさ、すぐスマホで僕を呼んでよね? あのまま連れていかれちゃったらどうするつもりだったの?」
「……俺男だし、向こうも酔ってたから酔いが醒めたらどうとでもなるとおもったんだよ」
はあ、っと和哉が大仰なため息をついたから背中でそれを聞いていた柚希でも和哉の苛立ちをすぐに感じて即、謝った。
「ごめん」
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