上 下
273 / 296
夏祭りの思い出

22

しおりを挟む
「兄さん! 大丈夫? 凄い怪我してる」

 慌て焦った和哉の声が頭上から喧々と降り注ぐから、まだ高校生の和哉に怖い思いをさせたことが申し訳なくて、柚希は弟を懸命に見上げて彼を落ち着かせようとなんとか口元に笑みを浮かべた。

「大したことない。慣れないこと色々したから、腰が抜けた。お前を護ってやりたかったのに。情けねえ」
「情けなくなんてない。僕こそ……。兄さんを護りたかったのに。一人にしてごめんね」

 成長した弟の大きな掌が、柚希の頭を労わるように優しく撫ぜるから、柚希は不覚にも涙が滲みそうになってしまった。
 和哉は柚希の前に背を向けてしゃがみこむと、柚希を振り返って促した。

「背中に乗って? 家に帰ろう」
「え? いいよ。無理無理。男なんだから、一人で歩ける」
「いいから乗ってよ。荷物も持ってないし、兄さん負ぶうくらい、何でもない。そんな怪我した兄さんを歩かせたら、俺が母さんに顔向けできない」
 
 そのままコンビニの入り口で兄弟は押し問答を繰り返していたが、祭り帰りと思しき若者がひっきりなしに出入りして二人をじろじろと見ていくから和哉が振り向き様、眉を吊り上げわざと怒ったような顔をしてみせた。

「もう! 知り合いが通りがかったら何かと思われるよ。早くして」

(成人した兄貴背負って歩いてる方が何かと思われるよなあ)

 そう言い返そうものなら、和哉がまた口をきいてくれないコースまっしぐらだとぐっと我慢する。それに弟に叱られたのが効いたというより、本当にもう安堵から腰が抜けてしまっていて、柚希は素直に和哉の命令に従うしかなかった。

「絶対、負ぶって歩けないって」
「うるさい。僕だって、兄さんぐらい余裕で負ぶえる」

 半信半疑で背後からまだ高校生の弟の首に腕を回すと、和哉は本当にひょいっと、柚希を負ぶって立ち上がり、軽々と歩き出した。すっかり逞しくなった弟の背の上で、柚希は流石に恥ずかしくていつの間にか敦哉のように広く大きくなった背中に顔を押し付けて赤面した顔を世間から隠す。

「変なことにお前を巻き込んで、ごめん」
「ああいう時はさ、すぐスマホで僕を呼んでよね? あのまま連れていかれちゃったらどうするつもりだったの?」
「……俺男だし、向こうも酔ってたから酔いが醒めたらどうとでもなるとおもったんだよ」

 はあ、っと和哉が大仰なため息をついたから背中でそれを聞いていた柚希でも和哉の苛立ちをすぐに感じて即、謝った。

「ごめん」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

観念しようね、レモンくん

天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです 🍋あらすじ🍋 バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。 美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。 共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突! 自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう 「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。 麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」 賭けに負けたら大変なことに!!! 奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。 「れーちゃん、観念しようね?」 『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

零れる

午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー あらすじ 十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。 オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。 ★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。 ★オメガバースです。 ★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい

海野幻創
BL
「その溺愛は伝わりづらい」の続編です。 久世透(くぜとおる)は、国会議員の秘書官として働く御曹司。 ノンケの生田雅紀(いくたまさき)に出会って両想いになれたはずが、同棲して三ヶ月後に解消せざるを得なくなる。 時を同じくして、首相である祖父と、秘書官としてついている西園寺議員から、久世は政略結婚の話を持ちかけられた。 前作→【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994

処理中です...