271 / 296
夏祭りの思い出
20
しおりを挟む
「俺らとこれから飲み行きましょうよ?」
柚希とて中高バスケ部で鍛えた腕っぷしは男であるから、柳眉を吊り上げ男の腕を簡単に振り払おうとした。しかし着慣れぬ浴衣の袖に引っかかり、飲みかけのチューハイのカップが倒れ、逆側に座り込んできた男の足元に飛沫がかかってしまった。
サンダルの足元と共に柚希の浴衣も濡れているのが分かって真面目な柚希は反射的に謝罪が口をついてしまった。
「あ、ごめっ……」
「あー、濡れちゃったじゃんか」
「これは責任取って付き合ってもらわないとね? いこっか?」
「……!」
肩をぐいっと掴まれたまま手首まで握られ、立ち上がらせようとしたことに流石にそれとこれとは別と、いらっときて睨みつけるが、ほどほどに酔っぱらっている青年たちは意に介していないようだ。上機嫌のまま二人で柚希を挟み込むようにして、会場を連れ出そうとしたので、下駄をはいた足で踏ん張ろうとするがどうにも力が入らずうまくいかない。
「酔ってるの? それともそういうの全部わざと俺らの事誘ってる? Ωのエッチなお兄さんなんだ?」
(気持ち悪っ! 和哉を巻き込む前に、振り払って逃げないと)
ぐいっと腰を抱かれ顔を近づけられ、柚希はキッと気丈に睨みつけたのだが、あのαの男に後ろ方抱き着かれた時のことや、痴漢に合いかけたこと、追いかけられて巻けたかどうかそんな不安な気持ちが一遍に蘇る。
(苦しい……、気持ち悪い……)
髪の毛がざわざわっと総毛立ち、心臓の辺りがぎゅうっと締め付けられるような苦しさで柚希は俯き呼吸が荒くなった。
「なんかやばいって。調子悪いんじゃないか? うわっ!」
もう一方の男が慌てたような声を上げたその時。
どかっという音と共に柚希の身体を抱えていた男が後ろに突き飛ばされ、驚いたもう一方の男が咎める前に、柚希は袖の上から二の腕を強い力で掴まれ勢いよく引き寄せられた。
抱き寄せてきた人物の身体にかなり勢いよくぶつかり、柚希はまたふらついたが屈強な身体がしっかりと柚希を抱きとめる。鼻先を何故かふわりと香る季節外れの金木犀に似た甘い香りを吸い込めば、安堵感、多幸感が押し寄せ、しかし足元が覚束なくなるほど、一気にくらくらと酔いが強く回る。
「何しやがる!」
色めき立つ男たちの声が背後から聞こえてきたが、柚希の頭は大きな掌に抱えられてくたりと肩に押し付けられて、その姿は見えない。
「はあ? お前らこそなんなんだよ。俺の恋人に手ぇ出しやがって!」
柚希とて中高バスケ部で鍛えた腕っぷしは男であるから、柳眉を吊り上げ男の腕を簡単に振り払おうとした。しかし着慣れぬ浴衣の袖に引っかかり、飲みかけのチューハイのカップが倒れ、逆側に座り込んできた男の足元に飛沫がかかってしまった。
サンダルの足元と共に柚希の浴衣も濡れているのが分かって真面目な柚希は反射的に謝罪が口をついてしまった。
「あ、ごめっ……」
「あー、濡れちゃったじゃんか」
「これは責任取って付き合ってもらわないとね? いこっか?」
「……!」
肩をぐいっと掴まれたまま手首まで握られ、立ち上がらせようとしたことに流石にそれとこれとは別と、いらっときて睨みつけるが、ほどほどに酔っぱらっている青年たちは意に介していないようだ。上機嫌のまま二人で柚希を挟み込むようにして、会場を連れ出そうとしたので、下駄をはいた足で踏ん張ろうとするがどうにも力が入らずうまくいかない。
「酔ってるの? それともそういうの全部わざと俺らの事誘ってる? Ωのエッチなお兄さんなんだ?」
(気持ち悪っ! 和哉を巻き込む前に、振り払って逃げないと)
ぐいっと腰を抱かれ顔を近づけられ、柚希はキッと気丈に睨みつけたのだが、あのαの男に後ろ方抱き着かれた時のことや、痴漢に合いかけたこと、追いかけられて巻けたかどうかそんな不安な気持ちが一遍に蘇る。
(苦しい……、気持ち悪い……)
髪の毛がざわざわっと総毛立ち、心臓の辺りがぎゅうっと締め付けられるような苦しさで柚希は俯き呼吸が荒くなった。
「なんかやばいって。調子悪いんじゃないか? うわっ!」
もう一方の男が慌てたような声を上げたその時。
どかっという音と共に柚希の身体を抱えていた男が後ろに突き飛ばされ、驚いたもう一方の男が咎める前に、柚希は袖の上から二の腕を強い力で掴まれ勢いよく引き寄せられた。
抱き寄せてきた人物の身体にかなり勢いよくぶつかり、柚希はまたふらついたが屈強な身体がしっかりと柚希を抱きとめる。鼻先を何故かふわりと香る季節外れの金木犀に似た甘い香りを吸い込めば、安堵感、多幸感が押し寄せ、しかし足元が覚束なくなるほど、一気にくらくらと酔いが強く回る。
「何しやがる!」
色めき立つ男たちの声が背後から聞こえてきたが、柚希の頭は大きな掌に抱えられてくたりと肩に押し付けられて、その姿は見えない。
「はあ? お前らこそなんなんだよ。俺の恋人に手ぇ出しやがって!」
0
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる