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夏祭りの思い出

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  そんな風に考えてから自分の今までの恋愛を振り返ってみた。好意を持ってくれた女の子がいたら、いつだって好きになってくれてありがとう、大事にしよう、と付き合ってきたつもりだ。
 だけど振られるのも決まって向こうの方からで、『一ノ瀬君は結局誰にでも優しくて私だけが好きなわけではない』などと言われ続けてきた。
 柚希としては誠意を見せたつもりだったが、感情が伴わないように見えてしまったのだろう。
 
(俺、どうして……。あの時あったαのリーマンの事は嫌だったんだろうな……。抱き着かれた時ぞわって、すごく気分が悪くなった。おかしいよな。今までだったら告白されたら即OKしてたはずなのに。どうしても嫌だった。男と番うって考えたら……。いやあんまり考えたくない。そういうのまだ、いいや)

 チューハイを飲み切って仕事の疲労が増した身体を持て余すようにただひたすらぼんやりしていたら、いつの間にか近寄ってきた二人組の青年に声をかけられた。

「お兄さん、浴衣、似合ってますね。すげー綺麗!」
「今一人? なんか、寂しそうっすね」

 柚希と同じくビールの入ったカップをプラプラと指先でだらしなく持ってはいるが成人しているようだし、酔ってはいそうだが見るからに悪辣な輩といった感じではない。身なりは大学生風で、一見ごく普通の柚希と年頃の近い青年たちだった。

「お兄さん、どっかであったことありますよね?」
「そうだっけ?」

 ほろ酔いで気分で頬を上気させ、慣れぬ浴衣の裾も襟も緩んで素肌を晒す無防備な柚希をじろじろと明け透けな視線で上から覗きこんでくるが、しかしどうにもそのにやけた顔に見覚えがないと柚希は小首をかしげた。
 
 これが古典的なナンパだということに柚希がすぐに気がつけなかったのは、自分は男で、相手はもしかしたら地元の知り合いかと思いついつい反応してしまったからだ。この炎天下一日しっかり労働してきた身体に酔いが回るのが早く、判断力が鈍っていたのもいけなかった。
 片方の男がどかっと隣に座ってきた時、とろんとした眼差しで相手を見つめたら、急に眼の色が変わったのが分かった。体温が上がってΩのフェロモンが漏れほのかに甘く香っていたのだが、Ωとして未熟な柚希そんな大事なことに気がつけていなかった。

「浴衣、色っぽいね? お兄さんさ、Ωだよね? いい匂いする。綺麗なうなじ、見えてますよ?」
 
 耳元でそう囁かれ首筋に酒臭い息が吹きかかり、すんっと匂いを嗅がれた気がした。ぞわぞわっと悪寒が背中を這い上り、不快感に眉を顰めた柚希が立ち上がるより先に男に肩を強い力で抱かれる。

(気持ち悪!!)
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