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夏祭りの思い出

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 混みあう盆踊りの会場で、二人は並んで焼きそばか何かを食べようとしていたところだった。そこに悪ふざけしながら駆けこんできた少年たちの一人がバランスを崩してよろけた時、彼が手にしていたかき氷を柚希が頭から被りかけて、それを咄嗟に和哉が柚希に覆いかぶさるようにして庇ったのが原因だった。
 赤いシロップが和哉の肩口から背中まで流れ、ざりざりと流れる氷が背に入って夏場であってもひやりと凍えた。その上腕の辺りもいつまでもべたべたで、折角の祭りの夜だというのに和哉は本当に散々な目に合った。

『柚にい大丈夫?』
『俺は大丈夫だよ! それより和くんの方が大変なことになってる!!』

 うろたえて騒いでしまった柚希だが、和哉の方はずっと冷静で真っ先に柚希の無事を確認してほっとした様子だった。柚希の頭を袖で覆うように隠しながら、和哉が今の和哉みたいな目線の高さから柚希を見おろしてきたのが印象的だった。
 いつもは可愛い、仔犬みたいに丸っこい大きな目が、きりりっと吊り上がって、まるで小さな王子様みたいだと柚希は弟の成長に少し胸がきゅんとしてしまった。
 盆踊り会場について大した時間が経っていなかったのに、兄弟のリクエストしたりんご飴や牛串を手分けして買い出しに行ってくれていた父母に散々な姿で発見された。
そのまま家族はそれらを土産にすぐに帰宅の途についた。
 大切な浴衣を汚してしまって和哉はすっかり落ち込んでいたが、当然桃乃がそれを叱るはずもなく、すぐに染み抜きに出して浴衣は今でも家に大切にしまってあるはずだ。

「あはは。俺の事庇ってくれた時、和哉凄く得意げな顔してた」
「僕そんな顔してた?」
「してた、してた」
「じゃあ、それはさ? きっと僕だって父さんみたいに、柚にいのことを護ってあげられるって証明したかったんだと思うよ」
「カズ君……」

 この先は歩行者天国になっている路上で急に和哉が立ち止まった。
街中には演歌調の浮かれた盆踊りの音色が流れていて、路上で酒を飲んで盛り上がっている若者たちが大きな声で談笑しているのが耳に付く。
会場の入り口は中に入り切れぬほどの人が溢れて並んでいるのが見えた。他にも入り口があるのかもしれないが、鳥居の下を通るこの場所が一番込み合う。和哉はあそこから入ろうか迂回しようか思案しているのかと柚希は弟を静かに見守った。
 日頃交通量の多い神社の前の道路は警察官も沢山巡回していて、やたらと声を上げて騒いでいるやんちゃそうな若者に注意しながら気ぜわし気に交通整理をしている。
 思っていた以上の人ごみに柚希もまた足を止め、和哉とはまた違う感情から眉を顰め、無意識に自分のうなじを周囲から護るように摩り撫ぜた。

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