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夏祭りの思い出

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 離れて暮らしてからはスマホを繋ぎっぱなしで眠ってしまった柚希の無防備な寝姿を想像して、電話から漏れる吐息を聞きながら自分を慰めてしまった事もある。
 今触れているのは夢にまで見た生身の兄の熱い身体。その腰の細さに、そのまま強く抱きしめてしまいたい情欲をかられ、唇を寄せて吸いついてしまいたくなる。

「カズくん?」

 身動きを止めてまた押し黙った和哉の頬を柚希の優美な指先が愛おし気に撫ぜていき、石鹸の匂い立つ首筋をかしげて柚希は少し恥ずかしそうに柔らかく微笑んだ。
その甘い仕草から柚希の中にある和哉を大切に想い愛してやまぬ優しさが十二分に伝わってきて、拗ねていた自分の幼さに和哉はかあっと頬を赤らめた。

「あ、やっぱ目立つよな? この土方焼けと首の境のとこ。みっともないよな」
「……そんなことない。兄さんはいつもすごく、綺麗だと思う。」

 素直にそう呟いて、和哉は魅入られたようにゆるゆると腕を上げ、柚希の頤に指先を絡ませた。

「ねえ、柚にい、今日が何の日か忘れちゃったの?」
「今日……? 母さんがお線香あげにおいでって……」

 所謂顎クイ状態で唇が触れそうな位置で和哉が囁くと、柚希はまじまじと和哉の顔を見つめたのち、ぽぽっと頬を赤らめ、何とも言えない可愛らしい顔をした。
きゅっと桜色の唇をすぼめて困り切ったような、見方によってはキス待ち顔のような悩ましい雰囲気を出したので、和哉は一瞬頭の中にキラキラと小さなハートマークが舞ったように胸を高鳴らせ、しかし次の瞬間がっかりした。

(なんだよ、その顔。また父さんと似てるって思ってる?)

 和哉が柚希の意外な反応に焦れて再び不機嫌なオーラを漂わせたら、柚希が明らかにおろおろと視線を揺らしながら気づかわし気に囁いてきた。

「和哉、……なんかさ」
「なに、また、父さんに似てるって言いたいの?」

 柚希は顎に手をかけた和哉の腕にそっと手を添え、僅かに頭を引いて口づけされそうな位置から逃れようとした。長い睫毛を伏せて頬を染めた柚希の表情が色っぽくも可愛らしく映る。

(何を考えてるの? 兄さん。いつでも僕でいっぱいになっていて欲しいのに。よそ見なんかしないで)

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