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夏祭りの思い出

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「ごめん、シャワー浴びてくるから、着替え置いといてくれる? タオルは適当に使うから」
「わかった」
 
 受け答えはしてくれるものの、軽口を叩いても甘えた感じに言い返してきて、仔犬みたいに人懐っこくまとわりついてきた頃の可愛いカズ君とは勝手が違う。あの頃はむくれたとしても柚希が頼って甘えたりしたらすぐに機嫌を直して抱き着いてきては嬉しそうにしていたけれど、180センチ越えの青年がそんなことするはずもなく、どう機嫌を取ってやればいいのか悩みどころだ。

(なんか難しいな……。そろそろ就職に向けたあれこれがあってストレス溜まってる? 俺専門学校卒だからその辺よくわかんないや。和哉とは面と向かってしゃべる方が久しぶりだからか、なんかちょっとうまくかみ合わない)

 今住んでいるアパートは追い炊きができない(お湯を入れて調節する)古めかしい物件だから、それに比べて天国のように広くて綺麗な実家の湯船につかりたかったがそうも言っていられない。今日は朝番のシフトだったから早朝から勤務で、湯舟まで使ったらもう、とろとろに心地よくて、ソファーで転寝でもしようものならそのまま眠ってしまう自信があった。
 少し温めのシャワーは浴びるけれども今日はまたアパートに帰る予定なのだ。

(はあ、母さん早く帰ってきてくれないかな。和哉と何話していいのか分からないなんて初めてだよ)

 小さな窓からまだ夕陽が射す時間帯にシャワーを浴びている間も柚希はあれこれと考えを巡らせる。

(敦哉さんの名前を出したら、機嫌悪くなった。敦哉さんが俺に気を使って俺が来るとき家を離れてくれてるのって三人でそう決めたのかな……。ここは敦哉さんの家なのにそういうのやっぱりおかしいよな。和哉も気を使って、なんとなく気持ちが落ち込むのかもしれない。どう和哉の気持ちをフォローすればいいんだろう)

 実際のところは和哉が一番気にしている『柚希が大好きな、敦哉さんに似ている和哉』という部分をグサグサと刺激してくるのがストレスの元ともいえるのだけれど柚希はそんなこと知る由もないのだ。

 あれこれ考えながら、実家にいた頃の癖で冷たいシャワーで浴室を冷ましてから柚希は脱衣所に戻ると、そこには何故か見慣れぬ服が置かれていた。

 白地によく見れば薄墨ですっと細い線が細かくひかれたような織があるそれを広げてみたら、生地からの連想では思った通りだが意外なことに、それは浴衣だった。

 柚希はその拍子に床に落ちた下着(これは母が買っておいたであろう柚希サイズの)を身に着け、海老茶の帯を掴んで浴衣を羽織ると脱衣所から和哉を呼びながら飛び出していった。

「和哉~、なんで浴衣がここにあんの?? 俺、着方分からないよ!!」 
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