252 / 296
夏祭りの思い出
1
しおりを挟む
今年も夏が巡り、柚希が突然の発情からΩ判定を受け、家族みんなで暮らした家を出てからもう半年以上が過ぎた。
一人暮らしにはまだ慣れない。明かりの消えた家に帰るのが嫌でどうしても仕事場に残りがちで、くたくたになって帰ると夕食もそこそこに眠り、また朝早くから出勤する。
そんな生活を無我夢中で過ごしているうちに、ただでさえ足が遠のいていた実家に顔を出せない日々が続いていた。
母から『お父さんたちのお線香をあげにいらっしゃい』と連絡があったのはちょうどお盆の頃だった。
仕事が終わるとそのまま住んでいるアパートとは駅を挟んで反対側にある実家方面に歩きだす。
(和哉はバイトかな? 母さんはもうじき帰ってくる頃だろう。敦哉さんにまた会えないのかな。会いたいな)
私鉄沿線で人気路線にありながら特段栄えた駅ではない。大きなスーパーがあるほかは小売店が数件ある程度で、後は学習塾や銀行がちらほら。少し歩けばすぐ住宅街にでる。
柚希が久しぶりに我が家の玄関前に立つと、門扉の下に飾られていたプランターの日日草はすっかりしおれてしまっていた。
夏の暑さで母がいくら丹精を込めても夕方にはすっかりしおれてしまうようだ。昼間もまた33℃を記録し、水をやっても根腐れを起こしてしまうのだろう。それだけでも、なんとなく寂しい心持ちになった。
風が出てきてまだ日没には早い黄色い太陽を雲が翳らせる。
ざわっとした音が耳元を吹き抜けていき、なんとなく心も同じく波たたせながら柚希は実家に合い鍵を使って開けて入っていった。
「お帰り」
「あ……。和哉」
声をかけてきたのは、弟の和哉だった。夏休み中はアルバイトで日々忙しくしているはずが、玄関で出迎えてくれ面食らう。それがもろに顔に出たのだろう。和哉の方も大きな瞳を見張り、怪訝な顔をして見つめ返してきた。
「柚にい、なんて顔してるの? おかえりなさい」
「あれ? 今日はバイトないの?」
「今週末は都内の店舗はお盆休みで人手いらないんだよ。……兄さんが帰ってくるんだから、僕だってゆっくりしたっていいだろ?」
玄関のたたきに立った、見上げた和哉の顔は心なしか機嫌が悪げに感じられた。心当たりを頭の中で整理して考えてみるが、思いつくことは一つぐらいかない。
(やっぱあれかな……。ここんとこ、寝落ちして通話しなかったから。昨日も出なかったし)
一人暮らしにはまだ慣れない。明かりの消えた家に帰るのが嫌でどうしても仕事場に残りがちで、くたくたになって帰ると夕食もそこそこに眠り、また朝早くから出勤する。
そんな生活を無我夢中で過ごしているうちに、ただでさえ足が遠のいていた実家に顔を出せない日々が続いていた。
母から『お父さんたちのお線香をあげにいらっしゃい』と連絡があったのはちょうどお盆の頃だった。
仕事が終わるとそのまま住んでいるアパートとは駅を挟んで反対側にある実家方面に歩きだす。
(和哉はバイトかな? 母さんはもうじき帰ってくる頃だろう。敦哉さんにまた会えないのかな。会いたいな)
私鉄沿線で人気路線にありながら特段栄えた駅ではない。大きなスーパーがあるほかは小売店が数件ある程度で、後は学習塾や銀行がちらほら。少し歩けばすぐ住宅街にでる。
柚希が久しぶりに我が家の玄関前に立つと、門扉の下に飾られていたプランターの日日草はすっかりしおれてしまっていた。
夏の暑さで母がいくら丹精を込めても夕方にはすっかりしおれてしまうようだ。昼間もまた33℃を記録し、水をやっても根腐れを起こしてしまうのだろう。それだけでも、なんとなく寂しい心持ちになった。
風が出てきてまだ日没には早い黄色い太陽を雲が翳らせる。
ざわっとした音が耳元を吹き抜けていき、なんとなく心も同じく波たたせながら柚希は実家に合い鍵を使って開けて入っていった。
「お帰り」
「あ……。和哉」
声をかけてきたのは、弟の和哉だった。夏休み中はアルバイトで日々忙しくしているはずが、玄関で出迎えてくれ面食らう。それがもろに顔に出たのだろう。和哉の方も大きな瞳を見張り、怪訝な顔をして見つめ返してきた。
「柚にい、なんて顔してるの? おかえりなさい」
「あれ? 今日はバイトないの?」
「今週末は都内の店舗はお盆休みで人手いらないんだよ。……兄さんが帰ってくるんだから、僕だってゆっくりしたっていいだろ?」
玄関のたたきに立った、見上げた和哉の顔は心なしか機嫌が悪げに感じられた。心当たりを頭の中で整理して考えてみるが、思いつくことは一つぐらいかない。
(やっぱあれかな……。ここんとこ、寝落ちして通話しなかったから。昨日も出なかったし)
0
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる