仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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春遠い、バレンタイン

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「いいからほら、兄さんが貰ったチョコみせて? ホワイトデーに何買うか母さんと相談した方がいいんじゃない?」

 身体を離しそんな風に言葉巧みに誘導したら、兄は弟の機嫌が直ったと安堵し、へらりと笑って首を振った。

「俺、誰からももらってない」
「え? 嘘つくな。さっき紙袋持ってただろ?」
「あ……。あれはさ。母さんがテレビ見て『これ凄く綺麗で美味しそう、食べてみたい』って言ってたチョコ。内緒で買ってきたんだ。ちょっとまってろ」

 柚希はいそいそと部屋を飛び出していくと、隣にある自室からすぐに戻ってきた。先ほどの紙袋の中から小さな箱を取り出して、意気揚々と和哉に手渡してくれる。

「カズ、テスト勉強頑張れよ。これ中々の値段だったから母さん分のが、敦哉さんとカズのより大きいけど。今年は手作りじゃないけど、俺の財力つぎ込んだから勘弁してくれ」

 綺麗な蒼い箱は包装紙ではなく黒いリボンがかかっていて、開けてみると濃淡の違う不思議な蒼い色のチョコレートが二つ入っていた。

「これ、本当にチョコレート?」

 思わず頬が緩んでしまうのは、愛する柚希からチョコを貰うことができたのだから仕方がないだろう。

「バタフライピーっていうハーブから自然の色素をとっているんだってさ。ホワイトチョコと合わせてあって……。綺麗な青だよな。幸せを呼んでくれるって、売り場に書いてあったから」
「そっか」

 家族思いの柚希は幸せを運んでくれるチョコレートを家族みんなに振舞いたくて、なけなしのバイト代からチョコを買ってくれたのだろう。
 
 早速包み紙を開いて、口の中に入れてみる。味わうように溶かしていくと、これがハーブの風味なのかというものもわかりそしてとても香り高く美味しく感じられた。

 甘いものが大好きな柚希がちょっとうらやましそうな顔をしたから、和哉はもう一枚を手に取って、再び柚希に近寄っていく。

 先ほど散々揶揄われたと思っていた柚希が腰を引いたから、和哉は先回りして背中から腰に手を回し、まるでダンスでも踊るかのように制服の兄を引き寄せる。
 
 思わず潤み揺らいだ兄の瞳に誘惑されて、再び唇を近づけて行ったら、柚希は観念したように、きゅっと瞳を瞑ってしまう。

(あー。もう。本当に兄さんてちょろいっていうか……。心配になるっていうか)

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