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春遠い、バレンタイン
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いつもツインテールにしていた髪を下ろして、心なしか薄化粧をしている。華奢な彼女は色づいた唇を震わせて何か言いたげな顔をしている。
「あ、あの……。ええと」
幼い舌ったらずな喋り方で、下ろしていた手を震えながら持ち上げる。首を垂れながら恭しく、和哉に小さな桃色の紙袋を差し出してきた。
「あの、好きです。これ、うけとって、ください」
背後で家の扉が開いたような音がしたのを感じながら、和哉はどうしたものかと考える。
(柚兄、盗み聞きしてるな)
ふと視線を感じて顔を上げる。すると頭を下げてチョコを差し出す少女の向こうに、末広二重の涼し気な目を炯炯と光らせたイケ女、岸と目が合ってしまった。
瞬間互いの間にあった交感は稲妻でもびりびりと走ったかのような激しい感情のやり取りが起こる。
これは多分互いに感じ取っているのか、岸は少女を挟んで親の仇でも見るような顔をしたまま、和哉から目を反らさない。
その顔つき、その眼差し。和哉には覚えがあった。
まるで鏡の中の、自分にそっくりな表情だと。
(ふうん? お仲間なのかな?)
頬の産毛が経つようなざわざわとした感覚は続く。
岸は噂通り、α性を持つのかもしれない。バース検査を公費で受けられるのは高校生になってからだが、すでに自分の性別に何かしら感じ入るところがあるものも多い。
和哉もその一人だ。自分はαなのではないかと思うこともある。こんな瞬間は特にだ。別に岸の事を嫌いなわけではないのに、自分の領域に踏み込もうとしてきた別の群れの長の様に、警戒心を抱かせる。
(でも、俺はその娘には興味ないよ。早く立ち去れ。ここは俺のテリトリーだ)
和哉は敢えて目を反らし、中学生にしては端正に整い過ぎた大人びた顔立ちにアルカイックな微笑みを浮かべてわざと聞こえよがしにきっぱりとこう言い切ったのだ。
「ごめん。受け取れない」
少女はだまりこみ、綺麗に巻いた前髪を乱し小さな声で『わかりました』と呟いて項垂れた。中学生、感情の起伏が大きく多感な時期だ。和哉は達観しているが、クラス内でもいつも何かと小競り合いが起こる。
彼女は面と向かって断られたことで、緊張の糸がふつり、と切れたのだろう。ふらふらと気でもやりそうなその肩をすかさず岸が抱き寄せて耳元で囁いている。
「あ、あの……。ええと」
幼い舌ったらずな喋り方で、下ろしていた手を震えながら持ち上げる。首を垂れながら恭しく、和哉に小さな桃色の紙袋を差し出してきた。
「あの、好きです。これ、うけとって、ください」
背後で家の扉が開いたような音がしたのを感じながら、和哉はどうしたものかと考える。
(柚兄、盗み聞きしてるな)
ふと視線を感じて顔を上げる。すると頭を下げてチョコを差し出す少女の向こうに、末広二重の涼し気な目を炯炯と光らせたイケ女、岸と目が合ってしまった。
瞬間互いの間にあった交感は稲妻でもびりびりと走ったかのような激しい感情のやり取りが起こる。
これは多分互いに感じ取っているのか、岸は少女を挟んで親の仇でも見るような顔をしたまま、和哉から目を反らさない。
その顔つき、その眼差し。和哉には覚えがあった。
まるで鏡の中の、自分にそっくりな表情だと。
(ふうん? お仲間なのかな?)
頬の産毛が経つようなざわざわとした感覚は続く。
岸は噂通り、α性を持つのかもしれない。バース検査を公費で受けられるのは高校生になってからだが、すでに自分の性別に何かしら感じ入るところがあるものも多い。
和哉もその一人だ。自分はαなのではないかと思うこともある。こんな瞬間は特にだ。別に岸の事を嫌いなわけではないのに、自分の領域に踏み込もうとしてきた別の群れの長の様に、警戒心を抱かせる。
(でも、俺はその娘には興味ないよ。早く立ち去れ。ここは俺のテリトリーだ)
和哉は敢えて目を反らし、中学生にしては端正に整い過ぎた大人びた顔立ちにアルカイックな微笑みを浮かべてわざと聞こえよがしにきっぱりとこう言い切ったのだ。
「ごめん。受け取れない」
少女はだまりこみ、綺麗に巻いた前髪を乱し小さな声で『わかりました』と呟いて項垂れた。中学生、感情の起伏が大きく多感な時期だ。和哉は達観しているが、クラス内でもいつも何かと小競り合いが起こる。
彼女は面と向かって断られたことで、緊張の糸がふつり、と切れたのだろう。ふらふらと気でもやりそうなその肩をすかさず岸が抱き寄せて耳元で囁いている。
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