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春遠い、バレンタイン
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(やっぱり貰ってきたか……)
「ごめん、ヘッドホンしてて、なにも聞こえなかった」
思ったよりも冷たい声を出してしまったようで、柚希は顔を寂しげに曇らせた。
「……沢山呼んだのに、聞いてなかったのかよ」
朴念仁の柚希でも、彼女ができた時以来、和哉がたまに思春期らしいそっけない態度を取るには気が付いているようだ。日ごろは気安く声をかけてくるのに、今は心底困った顔で自らの二の腕を掴み、和哉の出方を待っている。
(……そうやって、兄さんは僕のことでだけ、困っていればいいんだ)
「話したいことがあるみたいだから、玄関いってあげなよ」
兄に促され、仕方なしに立ちあがる。早めに話を聞きに降りて行こうと、気が進まぬ足取りで階段を下りていった。
扉が重たく感じるのは、湿気交じりの大風が吹いて向こうから扉を押さえつけていたからだろう。
ゆっくり開くと扉の向こうに最初に見えたのは、意外なことに武士のように仁王立ちし、真面目な顔で佇む岸だった。
襟足までできっちり切られた黒髪にコントラストの強い色白の顔は何故かむっつりとした表情で、チョコレートを渡しに来たにしては剣呑すぎる。
彼女からのメッセージを無視でもしてしまったのかと和哉は瞬時に頭を巡らせた。
「ごめん、連絡してくれてた?」
「いや、してない。直接来た。ごめん。……優乃、ほら」
岸が急に優しげな声を出して後ろを振り返ると、ひょこっと小さな顔が背筋がピンと伸びた岸の背中からこちらを覗きこみ、また背の後ろに隠れていく。
(……どっかでみたことあるか?)
「直接渡したいって勇気出すって言ったでしょ?」
そう促され、ようやくその女生徒が和哉の前に姿を現した。
同じ中学の制服ではなく彼女は私服姿で、私服姿だからこそ一瞬印象が浮かばなかったが顔を見たら思い出された。
「皐中の女バス?」
こくこくこくっとその子が一生懸命真っ赤な顔をして頷いている。
近隣にある中学校のバスケ部と、和哉の中学の顧問の先生が仲良しだから、二校間はよく交流を行っている。
その子は隣の中学の女子バスケチームの中でひときわ小柄で、しかしすばしっこくてひょいひょいとシュートを決めていたから印象に残っていたのだ。
「ごめん、ヘッドホンしてて、なにも聞こえなかった」
思ったよりも冷たい声を出してしまったようで、柚希は顔を寂しげに曇らせた。
「……沢山呼んだのに、聞いてなかったのかよ」
朴念仁の柚希でも、彼女ができた時以来、和哉がたまに思春期らしいそっけない態度を取るには気が付いているようだ。日ごろは気安く声をかけてくるのに、今は心底困った顔で自らの二の腕を掴み、和哉の出方を待っている。
(……そうやって、兄さんは僕のことでだけ、困っていればいいんだ)
「話したいことがあるみたいだから、玄関いってあげなよ」
兄に促され、仕方なしに立ちあがる。早めに話を聞きに降りて行こうと、気が進まぬ足取りで階段を下りていった。
扉が重たく感じるのは、湿気交じりの大風が吹いて向こうから扉を押さえつけていたからだろう。
ゆっくり開くと扉の向こうに最初に見えたのは、意外なことに武士のように仁王立ちし、真面目な顔で佇む岸だった。
襟足までできっちり切られた黒髪にコントラストの強い色白の顔は何故かむっつりとした表情で、チョコレートを渡しに来たにしては剣呑すぎる。
彼女からのメッセージを無視でもしてしまったのかと和哉は瞬時に頭を巡らせた。
「ごめん、連絡してくれてた?」
「いや、してない。直接来た。ごめん。……優乃、ほら」
岸が急に優しげな声を出して後ろを振り返ると、ひょこっと小さな顔が背筋がピンと伸びた岸の背中からこちらを覗きこみ、また背の後ろに隠れていく。
(……どっかでみたことあるか?)
「直接渡したいって勇気出すって言ったでしょ?」
そう促され、ようやくその女生徒が和哉の前に姿を現した。
同じ中学の制服ではなく彼女は私服姿で、私服姿だからこそ一瞬印象が浮かばなかったが顔を見たら思い出された。
「皐中の女バス?」
こくこくこくっとその子が一生懸命真っ赤な顔をして頷いている。
近隣にある中学校のバスケ部と、和哉の中学の顧問の先生が仲良しだから、二校間はよく交流を行っている。
その子は隣の中学の女子バスケチームの中でひときわ小柄で、しかしすばしっこくてひょいひょいとシュートを決めていたから印象に残っていたのだ。
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