仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
3 / 296
小話や設定作品の色々など

番外編 パヒューム・ディライト 1

しおりを挟む
☆柚希中二と和哉小5の秋。両親が再婚する寸前ぐらいです。

★前日譚です✨ 少しネタバレなので気になる方は第一部終わってからご覧くださいませ😊

 今日、薔薇園に行ってまいりました~ 薔薇の写真を撮りながら、お話を思い浮かべていました。
 鳩愛は今年から家でも薔薇を育てておりまして、薔薇をますます好きになりました。
 
「ねえ、柚くん。僕と『秘密の薔薇園』に行かない?」
 クイズ番組を見ながらぼうっと寛いでいた時、和哉が急にそんなことを言い出した。
 夕餉の支度が終わり、炊きあがったキノコご飯の香ばしい匂いが部屋に広がっている。駅に着いた母の桃乃がこちらに向かっていると先ほど連絡があったところだ。
 大分秋が深まってきたから、日が落ちると部屋の中もひやりとする。
 暖房を入れるまでもないが、隣同士にソファーに腰かけた二人は、なんとなく身体の半身をぴったりとくっつけている。お互いの体温が心地よく、部活の疲れも手伝って眠くなってしまいそうだった。
 しかし和哉から聞いたこともないようなお洒落なお誘いに驚いて、柚希は大きな瞳をぱちくりとさせた。

「秘密の薔薇園なんて存在するのか? 本に出てくる場所とか?」

 柚希が知らないことを話すとき、和哉は悪戯が成功した子供みたいににっこりとした。
 三つ年下でも和哉は聡い子だから、普段会話をしている時にあまりギャップを感じない。それでもこうやって柚希に驚いたり感心されたそぶりを見せられると嬉しいそうだ。そんな時に見せるあどけない笑顔が可愛くて仕方ないから、柚希はちょっと大仰に驚いた顔をしてしまう。

「ちゃんと存在する場所。個人の庭園だった場所を、町が管理することになって、秋と春だけ特別に公開してる薔薇園なんだ」
「ああ、だから『秘密の薔薇園』」
「母さんが生きていた頃は、毎年春と秋に行ってたんだ。母さん、薔薇が好きだったから」

 和哉が眉を下げ、悲し気に微笑んだから、柚希は我がことの様に胸が苦しくなって、まだ薄い肩を引き寄せた。

「思い出の場所なんだね」
「うん」

 そのまま和哉は甘えたな仕草で柚希の膝に頭をごろんっと寝転がった。最近とみに身長が伸びてきたから、膝から先がはみ出してしまうがお構いなしだ。

「カズ君……」
「みんなで一緒に暮らす前に、どうしても柚くんと桃乃さんを連れて行きたいんだって」

 柚希の腹に顔を押し付けた和哉はそのまま腕を柚希の背に回し、きゅうっと抱き着いてきた。そのまま無言になってしまった和哉だ。

 柚希は何も言えずに、和哉の茶色く柔らかな髪を撫ぜつつ、自らも和哉の背中に手を回す。

(和くん……。本当はお父さんの再婚、嫌なのかなあ)

 顔を上げない和哉は、泣いているのかと思った。どう声をかけていいか分からず、柚希は熱い身体を冷やさぬように、覆いかぶさって彼を抱きしめた。
 

※※※

 その週末は秋晴れに恵まれた。少し高台にある薔薇園からは街並みを一望できる見晴台もある。空気が澄んで雲のない青空は清々しい。
 四人で連れだって訪れた薔薇園は、貰ったパンフレットの写真に比べたらまだ花数が少なく少し寂し気に想えた。

「久しぶりに来たけど、春の方が花は多かった気がするね」
「そうなのね。でもあっちとか、綺麗に咲いている花も沢山あるわ」
 
 そう言って隣に立つ敦哉に向かって微笑む桃乃は、いかにも幸せそうに柚希には見えた。
 スーツ姿の時より私服はさらに若々しい敦哉に、どこか遠くを見ているような眼差しで、今日は少し無口な和哉。
 腰の位置が高く、さりげなくたっている姿も秀麗だ。見れば見るほどよく似たイケメン親子だと思う。そして柚希の方は、骨格は父親似だが顔立ちは母に似ているといわれている。

(周りの家族連れには、俺たちも普通の家族に見えているのかな)
 柚希は物心ついた時から父親の記憶が曖昧なので、なんだか不思議な気分になっていた。
 だが和哉は恐らく去年の春までと違う相手と来ているわけで、それがどんな感覚なのか想像するに、この四人で来るのは早急過ぎなかっただろうかと柚希は不安になった。

「今日は暖かいし、天気がいいから気持ちいいわ」
 そういって敦哉と連れだって歩く母が青空を眩しそうに見上げたので、柚希はその隙に和哉に目配せをした。

「俺、カズ君と一緒にソフトクリーム食べてくるね」
「柚希は来るなり花より団子だわね。ちょっと待って。和香さんの薔薇、一緒に探してからでいいじゃない」
「それも二人で探してくる。どっちが先に探せるか競争しよ? 写真撮って送るから!」
 
 柚希は和哉の手首をつかむと、二人からわざと離れる様に駆け出して行った。



☆良かったらお気に入り、感想やエール、ご投票頂けると勇気が湧きます!
お気に入りにぽさっといれるだけ、感想は一言「面白い!」だけでもかなりの加点になるそうです!
★感覚で投げていただけると本当にありがたいです🙇‍♀️
小話的番外編載せていけたらいいなあと頑張っております~
よろしくお願いします✨

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...