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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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「自分じゃ分からないかもしれないけど、兄さんは隠しても光が滲むみたいに明るくて、透明感があって、際立って綺麗だ。それは認めて。番のいるΩにもわざとちょっかいをかける人間はいるんだから気を付けて」
「はいはい。話それたな。それでさ、俺は発情期がない期間の方が長かったから、やっぱり前の生活の方が断然楽だし。懐かしむのはしょうがないだろう? お前だって明日から急にヒート来る上に妊娠できるとか言われてみろよ? 戸惑うだろ? 嫌気さすだろ?」
「それは、そうだろうね」
「だろ? そんなのβみたいな生活ができた方が楽に決まってるんだよ。急にΩだって言われても意識は簡単に変えられるもんじゃないんだよ。俺が今の自分自身に納得するのに時間かかったのはそのせいだ。でもまあ、その……。だからとにかく気に病むな。そんな顔すんな。お前にしてみたら、俺はずっとお前のΩだったんだろ?」
初めて出会った時の柚希の柔らかな笑顔、差し伸べられた手を思い出して和哉は微笑み、頬を撫ぜたり髪を悪戯する兄の手を握りこむ。
「僕は出会った時から兄さんに……。抗いがたい程、本能的に惹かれてた。だからきっと僕はαで兄さんはΩで……僕は兄さんに出会うためにこの世に生まれてきたんだって確信したんだよ。なのに兄さんに未分化の判定が出た時、僕はどこかおかしいのかとか、僕の方こそαじゃないのかとも思ったし、でもどうしても兄さんが欲しくて……。年上の同じ性別の人に振り向いてもらうためにはどうしたらいいんだって、色んな事考えて試して空回りして……」
空回りは苦しいことの連続だったようで、再び憂う口元に柚希は鼻先を摺り上げながら唇を寄せて拙い口づけをした。
「……分かってあげられなくてごめんな? 辛かったよな」
本人から面と向かってそう詫びられると、少しきまりが悪くなるようだ。和哉は照れて睫毛を伏せ、しかし今腕の中で兄が和哉に身を預けてくれているという事実と重みを感慨深く味わった。
「辛さより……。幸せなことが多かったよ。人を好きになる気持ちは、ずっと僕のここで輝いて、人生を明るく照らしてくれた」
和哉が柚希の手ごと胸に拳を当てて、男っぽい美貌を輝かせる。
「柚希。笑って? はじめて出会った時。柚希は僕に安心させるように笑いかけてくれたよね? あの笑顔を見た時、久しぶりに綺麗なものを見た気がした。あれからずっと、僕の中で一番綺麗なものは柚希の笑顔だよ」
そんなことを言われたら照れてしょうがない。はにかんだ柚希も瞳を輝かせてぱわっと、和哉が一番大好きな光が零れる表情をみせて小首を傾げた。
「はいはい。話それたな。それでさ、俺は発情期がない期間の方が長かったから、やっぱり前の生活の方が断然楽だし。懐かしむのはしょうがないだろう? お前だって明日から急にヒート来る上に妊娠できるとか言われてみろよ? 戸惑うだろ? 嫌気さすだろ?」
「それは、そうだろうね」
「だろ? そんなのβみたいな生活ができた方が楽に決まってるんだよ。急にΩだって言われても意識は簡単に変えられるもんじゃないんだよ。俺が今の自分自身に納得するのに時間かかったのはそのせいだ。でもまあ、その……。だからとにかく気に病むな。そんな顔すんな。お前にしてみたら、俺はずっとお前のΩだったんだろ?」
初めて出会った時の柚希の柔らかな笑顔、差し伸べられた手を思い出して和哉は微笑み、頬を撫ぜたり髪を悪戯する兄の手を握りこむ。
「僕は出会った時から兄さんに……。抗いがたい程、本能的に惹かれてた。だからきっと僕はαで兄さんはΩで……僕は兄さんに出会うためにこの世に生まれてきたんだって確信したんだよ。なのに兄さんに未分化の判定が出た時、僕はどこかおかしいのかとか、僕の方こそαじゃないのかとも思ったし、でもどうしても兄さんが欲しくて……。年上の同じ性別の人に振り向いてもらうためにはどうしたらいいんだって、色んな事考えて試して空回りして……」
空回りは苦しいことの連続だったようで、再び憂う口元に柚希は鼻先を摺り上げながら唇を寄せて拙い口づけをした。
「……分かってあげられなくてごめんな? 辛かったよな」
本人から面と向かってそう詫びられると、少しきまりが悪くなるようだ。和哉は照れて睫毛を伏せ、しかし今腕の中で兄が和哉に身を預けてくれているという事実と重みを感慨深く味わった。
「辛さより……。幸せなことが多かったよ。人を好きになる気持ちは、ずっと僕のここで輝いて、人生を明るく照らしてくれた」
和哉が柚希の手ごと胸に拳を当てて、男っぽい美貌を輝かせる。
「柚希。笑って? はじめて出会った時。柚希は僕に安心させるように笑いかけてくれたよね? あの笑顔を見た時、久しぶりに綺麗なものを見た気がした。あれからずっと、僕の中で一番綺麗なものは柚希の笑顔だよ」
そんなことを言われたら照れてしょうがない。はにかんだ柚希も瞳を輝かせてぱわっと、和哉が一番大好きな光が零れる表情をみせて小首を傾げた。
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